隣人の鷹見さん (ページ2)

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２羽目ページ2

隣に彼が引っ越してきてから数日が過ぎた。

本当に引っ越してきたのか信じられないほど、あれ以来彼とは会っていない。

なんなら、生活音のようなものさえ聞こえない。

不思議だ。

しかしながらそんな疑問は、セカセカと日中働いているうちに忘れてしまった。

夕焼けに染る道路を歩く、スーパーでの買い物帰り。

1階の郵便受けを、少し重いエコバッグ2つを持ちながら、器用に開く。

ちらりと隣を見ると、そこには所狭しと広告チラシや手紙が詰まった、鷹見さんの郵便受け。

それを見た私は、スーパーで今日の目玉だった、訳あり野菜詰め放題セールを思い出していた。

もっと袋を伸ばせたら、沢山詰められただろうなと考えながら、エレベーターのボタンを押す。

しかしながら、待てども待てどもエレベーターは来ない。

仕方ないと思いつつ、併設されていた非常階段を私は選んだ。

重い荷物と夕刊を抱え、1段1段登っていく。

ふと景色を見ると、もう夕焼けは消えて、黒1色の空に丸い月がぽっかり浮かんでいるだけだった。

綺麗だなぁと思いつつ、歩を進める。

何階か上がった時、ふとこの場には似つかわしく無い音が聞こえてきた。

甘く漏れだしたような女の吐息と、それを生み出しているだろうリップ音。

嘘だろ。
さすがに非常階段で盛(さか)るやつが居るのか。

私の心は非常事態そのものだった。

しかしながら、ここで少しの好奇心が疼(うず)いてしまうのが人間だ。

少しだけという気持ちで、私はその様子をちらりと見ることにした。

忍者のように足を忍ばせその音の元へ近づく。

チラリとバレないようにその様子を覗きみると、私はハッと息を飲んだ。

そこに居たのは紛れもなく鷹見さんだったからだ。

ドキンドキンと高鳴る鼓動を抑えるように、静かに私は来た道を戻る。

1番下の階まで戻ると、エレベーターの上ボタンを押した。

どうやら1階へ既に到着していたそれは、ウィーンと扉を開く。

自分の階を押してそのドアが閉まった時、ようやく私は酸素をめいっぱい吸うことが出来た気がした。

見てはいけないものを見てしまった…！

あれは紛れもなく鷹見さんだ！！

たしかにチャラいとは思っていたが、まさかあそこまでとは。

一体彼は何者なんだろうか。
気になって仕方がない気持ちを抱きつつ、私は自室へようやくたどり着く事ができた。