き ページ38
「少しだけ、僕に、君の時間をくれないかな？」
いつになく不安な顔で瞳を揺らす彼に、私は当惑した。
どうしようもなく黙りこくってしまう。
カァーカァーという烏の声が聞こえた。
そして小さく、伊作くんの唾を飲み込む音が聞こえた気がした。
私は一度だけ、ゆっくりと頷く。
「…！ありがとう。そしたら、どうしようかな…空き部屋が確か近くにあったはず…。」
ポツポツと呟いた彼は、私についてこいと言うように、前をスタスタと歩いて行く。
その背中を追いながら、私は繋がれることのなかった伊作くんの手を見つめていた。
「あった。待ってね、すぐ座布団出すから」
空き部屋を見つけた彼は、部屋に入った途端押し入れへと近づく。
そこから一枚だけ座布団を見つけた彼は、それを部屋の真ん中に置いた。
「Aちゃん、ここ。」
ポンポンと座布団をたたく。
私は申し訳なく思いながらも、そこに正座した。
それを見た彼は、少し開いてしまった襖をパタリと閉めにいく。
そして、少し暗くなった部屋を明るくしようと、灯し油に火をくべた。
「…よいしょ、と。」
意外にも老人のように腰を下ろした彼は、私をじっと正面から見つめる。
その視線は、まるで私の存在を確かめているようだった。
「…Aちゃん。本当に、Aちゃん、だよね？」
濡れた瞳で尋ねる彼に、そうだよと微笑みがちに伝える。
すると強引に、体を抱き寄せられた。
ギュッと伊作くんの腕の中に閉じ込められる。
少し痛いほどに抱きしめる彼は、少しだけ震えていた。
「本当に、A？」
幼子のような声で尋ねる彼に、そうだよと先程よりも優しい声色で答える。
「…怖い思いさせて、ごめんね。」
伊作くんが、苦しみの底から呟いたような声を、そのままに呟く。
「僕、守れなかったね。こんなにも、君のことを…。こんなにも、、」
言葉がかすかに震えて、自信がなさそうに響く。
語尾が弱まるにつれて、伊作くんの腕がフッと緩まっていった。
「山賊に襲われて、留三郎に介抱されて、新野先生にも迷惑かけて。でも、Aちゃんは何をしているのか、どこに居るのか分からなくて。不安で。…心配で。」
私の肩にグッと、伊作くんの額が乗せられた。
「今も、君がいるはずなのに、不安なんだ。」
弱々しく彼が呟く。
いつもの不運から来る弱々しさとはどこか違うソレに、私は抱きしめ返していた。
「…。」
部屋がシンと静まりかえる。
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く〜ちゃん(プロフ) - つときょさん» ありがとうございます!面白いって感じて頂けるのすっごく嬉しいです!!遅くなるかもしれませんが、絶対更新します…！(滝夜叉丸くん良いですよね！短編とかでぜひ夢主と絡ませてみたいです笑) (2020年7月8日 11時) (
レス) id: 61072eb2ca (このIDを非表示/違反報告)
つときょ(プロフ) - はじめまして、コメント失礼します。私はあまり転生系が好きではないのですがこの作品はとても面白くてついつい一気見しちゃいました！お体に気をつけてゆっくりでいいのでぜひこれからも更新してください！（できれば滝夜叉丸とかと絡ませてもらいたいです！） (2020年7月6日 22時) (レス) id: af8443efa9 (このIDを非表示/違反報告)
く〜ちゃん(プロフ) - ありすさん» コメントありがとうございます！温かいお言葉をかけて頂き、とても嬉しいです。今以上に楽しんで頂けますよう、更新頑張りますね…！ (2020年6月22日 3時) (レス) id: 581cf551f6 (このIDを非表示/違反報告)
ありす(プロフ) - コメント失礼します！面白くてサクサク読んじゃいました…！！夢主ちゃんが喋らない感じでお話が進んでいくのも新しくて新鮮で良いですね(*´ `)更新楽しみにしています！ (2020年6月20日 12時) (レス) id: 876b37614f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：く〜ちゃん | 作成日時：2020年4月27日 2時
