さ ページ37
あれからどれほどの時間が経過したのだろうか。
田村くんはこの部屋に訪れてからずっと話しっぱなしだ。
「それで、ユリ子が放った砲弾が綺麗に当たったんです!あの時の」
心が浮き立つままに、嬉々として話し続ける彼を私は止めることができなかった。
私は彼が話し始めてからずっと、楽しそうな表情の田村くんに釣られるように、にこやかに頷いている。
するとそこへ、ドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。
バンッ
乱雑に襖が開かれる。
そこには焦った表情を浮かべる潮江くんがいた。
「三木ヱ門!大変だ!また学園長先生がくだらない思いつきをなさった。予算案をもう一度確認し直すぞ…」
「えっ…」
サーと血の気が引いていくように顔を青ざめた田村くんは、渋々といった感じで立ち上がる。
「Aさん、たくさんお話できて楽しかったです。ぜひまた、その、僕と、お話ししてくれますか…?」
少し前の自信たっぷりだった彼はどこに行ってしまったのだろうか。
不安げな瞳で尋ねてくる彼に、私はもちろんと返した。
「…!ありがとうございます!それじゃあ、また!今度はユリ子を連れてきます!」
ほくほく顔で、田村くんは潮江くんとこの部屋を去って行った。
……去り際に、潮江くんが憂いな表情を浮かべていたのは気のせいだろうか。
・
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ずっと立花くんの部屋に居るわけにもいかないと、私は自室への帰路についていた。
廊下から見える裏山は、西に傾いた陽の光を受けて橙色に染まっていた。
いつの間にか、日が暮れ始めている。
早く化粧を落として浴室に行かないと。
そんなことを考えながら、私はゆったりと歩いていた。
すると、目の前の曲がり角から見知った顔が見える。
「あっ…」
驚き顔とともに、伊作くんの声。
二人で顔を合わせるのは、山賊に出くわした日以来だろうか。
気まずい雰囲気が、私達を包み込んだ。
「え、えっと、Aちゃん、いつもより雰囲気違う、ね?」
たどたどしく、けれどどこか恥ずかしそうに呟く彼は、ピンクに染まった頬をカリカリと人差し指で掻いた。
立花くんに化粧してもらったことを伝えると、伊作くんは驚いたように目を丸くする。
「え、仙蔵が?!僕たちには一回もやってくれなかったのにな〜…」
アハハと冗談めいて笑う彼のお陰で、少しばかり空気が軽くなった。
しかしながら、それはほんの数秒だけのことで、すぐさま彼は表情を固くした。
「Aちゃん、今、少し暇?」
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く〜ちゃん(プロフ) - つときょさん» ありがとうございます!面白いって感じて頂けるのすっごく嬉しいです!!遅くなるかもしれませんが、絶対更新します…!(滝夜叉丸くん良いですよね!短編とかでぜひ夢主と絡ませてみたいです笑) (2020年7月8日 11時) (レス) id: 61072eb2ca (このIDを非表示/違反報告)
つときょ(プロフ) - はじめまして、コメント失礼します。私はあまり転生系が好きではないのですがこの作品はとても面白くてついつい一気見しちゃいました!お体に気をつけてゆっくりでいいのでぜひこれからも更新してください!(できれば滝夜叉丸とかと絡ませてもらいたいです!) (2020年7月6日 22時) (レス) id: af8443efa9 (このIDを非表示/違反報告)
く〜ちゃん(プロフ) - ありすさん» コメントありがとうございます!温かいお言葉をかけて頂き、とても嬉しいです。今以上に楽しんで頂けますよう、更新頑張りますね…! (2020年6月22日 3時) (レス) id: 581cf551f6 (このIDを非表示/違反報告)
ありす(プロフ) - コメント失礼します!面白くてサクサク読んじゃいました…!!夢主ちゃんが喋らない感じでお話が進んでいくのも新しくて新鮮で良いですね(*´ `)更新楽しみにしています! (2020年6月20日 12時) (レス) id: 876b37614f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:く〜ちゃん | 作成日時:2020年4月27日 2時