【ONE PIECE】透明からどんな色に【サンジ】 (ページ8)

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待ち人、待たれ人ページ8

～No side～

船尾でヴァイオリンの音色を奏でる骸骨の音楽家の元に、観客が訪れた。

「ヨホホ、珍しい来客ですね。」

「素敵な音色が聞こえたもので…ご一緒しても宜しいですか？」

「勿論ですとも。」

観客、もといAを客席まで誘導し、ブルックはもう一度ヴァイオリンに手をかけた。
先程までのクラシックは止め、Aとヴァルドが来たら弾こうと決めていた、"あの一曲"を奏でた。

Aは音楽に身を委ねるように目を瞑り、恍惚の表情を浮かべた。

「"ビンクスの酒"ですか。」

「流石Aさん、ご存知でしたか。」

「父が生前、よく歌っていたので。」

作家であり、且つ武闘家で大好きな海を放浪していた流離人(さすらいびと)であったAの父。
紛れもない海賊の唄だが、海を渡る者の心を通わせる唄でもあるのだ。
そのことを、ブルックは重々承知していた。

「成程。それでAさんはよく、海を眺めているんですね。」

「父の冒険話と、その父の帰りを待っていたのが原因ですね。いつからか、海を眺めるのが目的になっていましたよ。」

何気ない笑い話の中に、ブルックは懐かしさと同時に、切なさを憶えた。
誘発されたのは、今も自分の帰りを待つ、"彼"の面影だった。

「Aさんを見ていると、つい思い出してしまいますね。」

「何を思い出したんですか？」

「必ず帰ると約束した、ある"鯨"のことです。」

ブルックは、何とも楽しそうに、時に悲しそうにラブーンとの思い出を赤裸々に話した。
Aは楽しそうに話すブルックを見ては微笑み、真剣な表情で語るブルックを見ては、同じ表情で真摯に聞いていた。

「今私がこうしてまた海賊をやれているのも、ラブーンに会えると希望を持てたのも、皆さんのお陰なんです。」

「そうだったんですか…」

「Aさんにお話し出来てよかった。聞いてもらったお礼に、もう一曲聴いて頂けますか？」

「はい、勿論。ただ、お願いを1つ聞いて頂けませんか？」

ブルックは何だろうと身構えると、持ち前の可憐で儚げな微笑を浮かべ、優しく、思いやり溢れる彼女らしいお願いを───。

「その曲は、待っているラブーンと、厚顔なのは承知ですが、父の為に弾いて頂けませんか？」

「ッ！ええッ…喜んで！」

溢れそうな感動を何とか抑え、秀麗な立ち振る舞いを見せ、心を込めて心地の良い音色を奏でた。