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%E3【支倉 初音】 ページ26

雨司は、迷うことなくとある商品棚まで歩いていく。
コツ、コツ。
と、静かで雨司以外の客がいないコンビニエンスストアに、雨司のスニーカーの音が響く。
彼女のグレーのパーカーの背中が、一瞬名探偵ポワロと重なる。
そこでプルメリアがレジを前に立ち、私に向かって
 『私が接客すればいいんですか?』
とでもいいたげな視線を送ってきているのに気づく。
私は返事の代わりに、教師としての思いを込めた視線を投げかける。
すると彼女は私の意志を受け取ったようでこくりとうなづいた。
なんだかしぶしぶといった感じのうなづき方に、心の奥から罪悪感が芽生える。
が、これが教師のやることだと自分を制した。
プルメリアと同じカウンターの横でノートに数式をひたすらに綴る数に目をやると、数はこちらにちらりとだけ目線をやってから、ノートに再び目をやった。
『接客はプルメリアに任せてくれ』という目線に、少し呆れて息をつく。
まあいい、次の客を数に任せたらいいだろう。
次の客が来るかどうかも怪しいんだがな。心の中で苦笑交じりに呟く。
そんな私はそっちのけで、雨司はおにぎりの棚を前に、腕を組んでなにやら考えている。すぐに見当がついた。
ああ、おにぎりの味を悩んでるんだな。
なんだか彼女らしい悩みである。と言っても、担任にはなったことがないのだが。
雨司は不登校なのであまり学校に顔を見せない。
なので、あちら側が私を覚えているかも不確かである。
雨司はそのまま数分間悩んだ後、棚に手をのばしておにぎりを二個取った。
雨司はそのまま軽い足取りでこちらに向かってきた。
彼女はプルメリアが前にしているカウンターの上に、ポンと商品を置いた。
 「これ、買います」
☆★☆★
 「有難うございました」
プルメリアは小さくなりつつある雨司に向かって一礼。
入店した時と同じメロディが機械的に響き、カシャンと自動ドアが音もなく閉じる。
雨司のグレーのパーカーの背中は、顔をあげるともう消えていた。
プルメリアはふう、と息をはいた。それは安堵の息だったのか、呆れてはいた息だったのか。
真実は杳として知れない。
数とはというとちらりとこちらを一瞥すると再びノートに向き合う。
私は、手を叩いた。唐突の拍手に少し目を見開き、顔をあげた数。こんな時でも冷静なプルメリアに、私は笑顔で言った。
 「きちんと接客できていた。お疲れ様」
 「…有難うございます」
プルメリアが照れ隠しのようにそう付け加えたのを、私は見逃さなかった。

寄り添うカゲ【ハチ】→←値札、値札、値札。【鶯崎 林檎】



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雨読@低浮上…?なのか?(プロフ) - まだ四十八話だったのですが、続編の考査編へ移行させていただきます!これからも宜しくお願い致します! (2020年7月26日 16時) (レス) id: 10653b224c (このIDを非表示/違反報告)
雨司@多忙(プロフ) - 更新しました。 (2020年7月10日 13時) (レス) id: 10653b224c (このIDを非表示/違反報告)
雨司@多忙(プロフ) - 更新します。 (2020年7月10日 8時) (レス) id: 10653b224c (このIDを非表示/違反報告)
雨司@元ユリイ(プロフ) - 更新しました。 (2020年6月30日 18時) (レス) id: 2b687b1169 (このIDを非表示/違反報告)
雨司@元ユリイ(プロフ) - お久しぶりです。更新いたします。 (2020年6月30日 17時) (レス) id: 2b687b1169 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:スカイハイ転生学園一同 x他9人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/novel/sakyomatsu1/  
作成日時:2020年5月12日 16時

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