災藤＊髪(2) ページ9
｢当たり前じゃないですか…｣
｢…私も寂しいよ｣
｢……寂しいのもそうですが…そんなに長い年月を過ごしたら、お互い忘れてしまいそうで怖いです……｣
もちろん、忘れたくなんてないし、忘れるつもりもない。
だが生き物というのはいつかは忘れてしまう。
生前事故で亡くなった私はそのことをよく知っている。
悲しんでいた友達も、恋人も、今はもう関係ないという顔で今を生きている。
私も実際、彼等のことはあまりよく覚えていない。だから怖いのだ。忘れたくなくても、時間が忘れてしまうのだから。
｢…だったらこうしよう｣
災藤さんはある提案をした。
｢お互い、髪を伸ばそう｣
｢…髪…ですか？｣
｢そうだ。この10年の間、お互いのことを想いながら髪を伸ばすんだ。もちろん、前髪とかは別でね。
人というのは、2ヶ月同じことを続けていると習慣化して、忘れなくなるんだ。
お互いのことを想って伸ばし続けまた10年後会った時に髪を切るんだ。
そうすれば、お互いずっと心の中に居続ける｣
｢ということは、10年後、どちらかの髪が短かったら、｣
｢それはもう、私たちの愛はそこまでということだ。
この髪が邪魔だと思ってしまったのなら、即ち相手が邪魔ということになるからね｣
｢………｣
正直、それは不安だった。
そもそも、ずっと髪の毛がショートで、更には暑いという理由で刈り上げも少ししている私が、髪の毛を伸ばすということができるのだろうか。
そして、男の人である災藤さんも長髪にするというのはどういう気持ちなのだろうか。
｢ちなみに、私は長髪経験があるよ｣
｢えっ、そうなんですか｣
｢あぁ、私はこれをするのは二回目だからね
…まぁ、相手には見事に裏切られてしまったが｣
｢……なんてね。ほんのゲームみたいなものさ。お気楽に…｣
｢わかりました。やります。｣
｢えっ？｣
｢髪を伸ばします。貴方を、災藤さんを想いながら毎日伸ばします。絶対に災藤さんに会うまで切りません｣
｢…A？｣
どういう風の吹き回しかはわからない。
ただ、
''あぁ、私はこれをするのは二回目だからね
…まぁ、相手には見事に裏切られてしまったが''
その言葉を言った災藤さんの表情がこれまでにないくらい悲しそうだったからだ。
｢……そう、じゃあ、また10年後期待をしているよ｣
そう言って、旅立つ前夜彼は私の唇にキスをし、私を抱いた。
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作者名：ある人 | 作成日時：2021年1月15日 0時
