グラスに潜む愛を一つ (ページ6)

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待ちに待った声が耳に届く。
嬉々として振り返れば、直ぐにその行動を後悔した。

「Aちゃん、こんばんは。」
「初めまして、こんばんは。」

大気君の隣で微笑む女性。
綺麗だがあどけない雰囲気を纏う彼女に、胸を抉られたような感覚を覚える。

「こんばんは、早かったね。いらっしゃいませ。」

表情を歪めまいと無理矢理引き上げた口角に気付いたマスターがキッチンから出て私の手を引いた。

「虫君昨日振り。美桜ちゃん連れて来るなんて聞いてないよー。」

はは、と笑うマスター。
「美桜ちゃん」は恐らく、いや確実に、太紀君の彼女であろう。

そのまま二人を席に通したマスターが私の頭を少し雑に撫で、ごめんとジェスチャーをして見せた。

「美桜ちゃん来るって聞いてなかった。ごめんな。」
「いえ、マスターの所為ではないので....御気遣いありがとうございます。」

会釈をし俯いた途端、床にぽたりと水滴が垂れる。
泣いちゃ駄目だと思う程視界がぼやけていく。

「Aちゃん、二人に何かカクテル作ってくれる？俺が代わりに他の事やっとくからさ。」

頷いて、キッチンへと向かった。
良い職場だな、本当に。

滲んだ涙を拭って、カクテルグラスとミキシンググラスを冷やす。
ミキシンググラスにアンゴスチュラビターズ、ウイスキー、ベルモットを順に注げば、マドラーで優しくステア。
それをゆっくりとカクテルグラスに注ぎ入れ、カクテルピンに甘いチェリーを刺してそっと飾る。
仕上げにレモンピールを絞って、出来上がり。

琥珀色のマンハッタン。
添える言葉は、「切ない恋心」。

無意識に目が行った、奥の席で笑い合う二人。
居た堪れなくなって、何処か申し訳なくて。
美桜さんには別の物を作ろうとグラスに手を伸ばした。