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私の気持ちは御構い無しに鳴り響くスマホの液晶画面を、ノールックで叩く。

小さく唸って目を開けば、知らぬ間に開き切ったカーテン。
網戸を通し、朝日と生温い風が運ばれて来る。

鉛を飲み込んだかのように重い体を起こし、出勤する為に準備を始めた。

歯を磨いて顔を洗って、何時もの化粧水をゆっくりとパッティング。
そのまま適当にメイクを済ませ、アイロンを温める。

何時もと変わらない午前八時だが、気分は沈んでいた。

相変わらず仲良いね、夫婦みたい。って何よ。
完全に脈無しじゃん。知ってたけどさ。

感情のまま荒くなる手先。

乱暴にワンピースを引っ張り出して、髪を整えて。
荒々しく準備を済ませた。

「行ってきます。」

歩いて二十分程の場所にひっそりと佇む私の職場。
マスターの雰囲気、東海オンエアの紹介により着々と人気が上昇し、今では比較的若い女性を中心に昼間も賑わうバーとなった。

「マスターおはようございます。」

試験管を揺らす手を止め、「おはよう」微笑む彼。
人気の理由もわかる気がする。

「今日も予約多いから宜しくね。」
「わ、そうなんですか。頑張りまーす。」
「気ぃ抜けた返事しないの。」

コツンとドアをノックするように額を叩かれ、にやりと笑ったマスターが、誰に聞かれる訳でもないのに耳元に顔を寄せた。

「今日ね、深夜虫君来るよ。」

虫君。太紀君。太紀君。

「本当っ?」
「本当。頑張るよ。」

先程までの沈んだ心が嘘のよう。
スタッフルームの隅のハンガーから白衣を掴み、ふわりと羽織って軽い足取りでホールへと出た。

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作者名: | 作成日時:2020年5月8日 7時

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