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ぽちゃん、水滴が湯船へと飛び込む。
あれから帰路に着き、浴槽へと身を沈めたのは朝の四時で、寝不足の所為か頭痛が止まない。
普段は日付が変わる頃には帰宅しているのだが、てっちゃんが来ていた事もありすっかり長居してしまった。
火照り始めた頬を合図に浴槽から立ち上がり、適当に水滴を拭いて部屋着に着替えると、髪も乾かさずベッドへ飛び込んだ。
両手に収まってしまう程の小さなそれを優しく包む。
頬にすり寄せ、流石に気持ち悪いな、と反省。
仰向けになり腕を伸ばす。
両手の中で眼鏡の奥からきゅるんと丸い目を此方に向ける、茶色のズボンの縫い包み。
東海オンエアのグッズ。
虫眼鏡こと太紀君の物。
とある晩、メンバー全員分の試作品の縫い包みの入った紙袋を片手にフラクタルに入って来た太紀君。
マスターに見せて談笑する彼に見惚れていれば、冗談みたいにそれを差し出して。
「Aちゃん、いる?」
なんて微笑むから。
「欲しい、いるっ....!」
勢いに任せて受け取った、恥ずかしくて、甘酸っぱい思い出。
夏の風がカーテンを揺らした。
鼻を掠める優しい空気は、夜とも朝とも言えない不思議な匂いで。
気付いた頃には、夢の中へと意識を手放していた。
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作者名:或 | 作成日時:2020年5月8日 7時