第十七話 ページ18
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「……じゃあ、いってらっしゃい」
「シンディア姫様、よろしければ甘いものでも買ってきましょうか。王宮のコックが作るもの程ではありませんが、きっとお口に合いますよ」
「あ、はい。お願いします……」
次から次へと彼の薄く柔らかそうな唇から飛び出す親切心にわたしはただ驚くばかりだ。
ジャーファルさんは、わたしが嫌いなのだろうか。どちらが本当の彼なのだろう。
スパルトスさんはそんな会話を聞いて、どう思ったのか、ジャーファルさんに向けてふっと笑みを漏らす。
「甘いですね、あなたは」
ジャーファルさんはくすくす笑う。服の裾を口元に寄せて。スパルトスさんはそのまま踵(きびす)を返して、歩き出した。ジャーファルさんも、では行って参ります、と門の方へ向かってしまう。
残されたのは、異変への予感と戸惑いに震えるわたしだけだった。
○●○
シンドバッドさんがジャーファルさんとマスルールさんを連れて、バルバッドへ向かった。シンドバッドさんがいないシンドリアは、初めてである。
近頃、ドラコーンさんが多忙なために、彼が特別に先生を手配してくださった。普段は黒秤塔で、留学生逹に勉強を教えている方で、その人はわざわざわたしの部屋まで来て、丁寧に物事を説明してくれる。なるべくわたしとは関わりたくないらしく、授業が終わると足早に部屋を去ってしまうのだけれど。
今日も先生と勉強をしたわたしは、レースが裾から控えめに覗くワンピースをひらひらさせて、王宮内を散策していた。ワンピースは動きやすくて、最近ワンピースばかり着ている。たまに思い出す。知世ちゃんによく作ってもらったコスチュームとか、着付けてもらった浴衣を。日本の文化の象徴であるそれは、南国では全く見ないので、懐かしくなるのだ。
「……あれって、もしかして」
王宮のとある一室。半年間、この王宮に住んでいるけれど、わたしもまだどこが何のための部屋なのか正確には分かっていない。だから、この部屋も何の部屋かわたしは知らなかった。
部屋の壁には、わたしにとって目新しくも何ともない、むしろ懐かしくて仕方のないものが掛かっていた。
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HARU(プロフ) - 音宮あおいさん» コメント有難うございます!最近忙しくてお話のほうも不完全燃焼が多くなって手抜き感がじわじわと広がっていくと思いますが、これからもよろしくお願いします(*´ω`*) (2015年10月4日 17時) (レス) id: 1ddf4d0ed1 (このIDを非表示/違反報告)
HARU(プロフ) - リンさん» はい頑張ります!!第二部のほうもちびちびやっていきますので、これからもよろしくお願いします(*´ω`*) (2015年10月4日 17時) (レス) id: 1ddf4d0ed1 (このIDを非表示/違反報告)
音宮あおい(プロフ) - はじめまして。さくらちゃんの本音がリアル過ぎて泣けてくるし、そんなさくらちゃんの心の支えになってくれてるケロちゃんが可愛すぎます!更新頑張ってください! (2015年10月1日 19時) (レス) id: e83c49882d (このIDを非表示/違反報告)
リン(プロフ) - ずっと更新待ってました!続きがきになります!更新頑張って下さい!楽しみにしてます(*´ω`*) (2015年9月24日 23時) (レス) id: 3f318786d5 (このIDを非表示/違反報告)
HARU(プロフ) - 刹那さん» 私の小説を面白いと言ってくださる方がいるなんて…!歓喜極まります(*´ω`*)読者様のおかげで第一部完結することができました!レス遅くなってすいませんです…。 (2015年9月20日 20時) (レス) id: 1ddf4d0ed1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:HARU | 作者ホームページ:http://artemis
作成日時:2014年4月4日 3時