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「あの…。」
頭上から可愛い声がした。
それはもちろん私の声ではない。
声の主の方に目を向けると可愛い女の子がチョコブラウンくんの前に立っていた。
たぶん…うちのクラスの子ではないと思う。
女の子は私に少し会釈をするとチョコブラウンに「今、大丈夫ですか?」とこれまた可愛い声で聞いた。
「いや…今こっちで喋ってるから…。」
「私は…全然大丈夫ですよ。」
「いや…。」
行くことを渋っていたチョコブラウンくんだったが
「少しだけお時間ください。」
という女の子の申し出に渋々着いて行った。
チョコブラウンくんと女の子は
少しずつ人が増えて来た教室を出て行った。
赤く染まった女の子の頬
上ずった声
おそらくそういうことだろう
入学して1ヶ月
彼女にチョコブラウンくんの何が見えているのだろうか
チョコブラウンくんの何が彼女の頬を染め上げるのか
私にはわからい。
「うっ…」
突然胃の中がぐるぐるとかき回され
頭をハンマーでガンガンと叩かれたような衝撃が走る
ダメだ。
急いで教室を出てお手洗いに駆け込む。
ダラダラと止まることを知らない汗をなんとか拭きながら
少しでも体調が収まるのを待つ
息を吐いて吸って、息を吐いて吸って
まるで出産するようのように。
知らないけど。出産したことがないから。
どのくらい時間が経っただろう。
しばらくしてだいぶ体調が回復すると、重い体を引きずって教室へと帰る。
ガラガラとさっきより重く感じるドアを開けると
私以外の席は埋まっており、教壇には担任の二宮先生がいた。
「柏崎、よかった。欠席じゃないんだな。」
「すいません。」
ふらつく体を支え席に向かう。
「柏崎、大丈夫か?体調悪いなら保健室に…」
「大丈夫です。」
保健室にお世話になるのは好きじゃない。
先生にお世話になるのは好きじゃない。
誰にもお世話にならずに生きていきたい。
自分の席に着くと力が抜けたのか、へなへなと机に突っ伏してしまう。
「大丈夫じゃないよね?」
隣から小さい声が聞こえた。
「大丈夫…です。」
また体調が悪くなってしまいそうだったから、私は目を閉じて睡眠欲に身を任せた。
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作者名:日向(ひなた) | 作成日時:2018年8月8日 19時