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重い瞼。消毒液の匂い。どこかで感じた雰囲気。硬い背中。低い頭…といっても体よりは高い場所。
暖かいような寒いような場所。
「…ん？…ふぅ…んぁ？」
思い瞼を開ける。瞼の筋肉だけじゃ追いつかなかったから、右手の指の力も借りた。
目に飛び込むだいぶ色落ちしたハニーブラウン。
菊池くんだった。目の前にいるのは携帯を触っている菊池くんだった。
「あ、起きた。久しぶりだね、ぶっ倒れるの。大丈夫…ではないか。」
「ごめん。」
音が聞こえる。それに安堵する。
保健室の外からグラウンドで部活をやっている人の声も聞こえる。
ふーっと1度深呼吸をすると
「帰れそう？」
携帯を枕元に置いて、心配そうな顔の菊池くんに聞かれる。
「うん。たぶん。いつも、迷惑かけて、ごめん。」
「いいよ。だって、俺のせいでしょ。」
「え？」
「だって三…いやごめんやっぱやめよ。帰ろ。」
三島といいかけてやめる。菊池くんは自分のカバンと私のカバンを肩にかけた。
「帰ろ。」
左手を差し出す。私の手に。
「うん。」
遠慮なくその手をとってベッドから這い上がる。保健室には先生はいなくて、何も言わずに2人で保健室を出た。
握られた手は、握られたまま。
何も会話は交わされない。
そういえば菊池くんの温もりを、こうして手を繋いで感じるのは初めてじゃないだろうか。
「あっ柏崎。もう大丈夫そう？」
「にっ二宮先生っ！」
見られちゃいけないものを見られた気がして、サッと握られていた手を離す。
「すっすいませんご迷惑をおかけしました。」
「いいんだよ。子供は迷惑かけてナンボだから。」
いつも気だるそうで、めんどくさそうな二宮先生だけど、こういう時はちょっと先生っぽい、顔をする。
「俺もそろそろ帰ろうかなと思ってたんだけど、乗ってく？車。菊池も一緒に。」
「え？」
「菊池も一緒なら大丈夫だと思うけど、また倒れたら困るだろ？」
「大丈夫ですけど…たぶん。」
「お願いしよ、A。だって子供は迷惑かけてナンボなんですよね？センセ？」
「お前それ、今度から乱用してくるなよ？」
ヘラヘラ笑った先生は、職員用玄関で待っててとだけ言い残し、早足で職員室に向かった。
取り残された私たちは、また何の言葉も交わさず職員用玄関へと向かった。
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作者名：日向(ひなた)
| 作成日時：2018年8月8日 19時
