１５. 会社 ページ15
「セバスに聞いたの？」
「うん...」
朝食に使った食器を片付けながら大野さんと会話をする。
「ごめん、黙ってるつもりはなかったんだ。話そうと思ってて...」
「ううん、大丈夫だよ。気にしてない」
「それなら、いいんだけど...」
「あっ、大野さん。今日は絵描かないの？」
「あぁ、今は少し...」
「そっか...また見せてね。好きだから」
「...えっ？」
「あっ、櫻井さん、お昼のサンドイッチ忘れて行ってる...。大野さん、」
呼んでも返事がないから、少し大きな声でもう一度名前を呼んでみる。
「え、あぁ...どうしたの？」
「櫻井さんの会社って...」
−−−−−−−−−−−
「大きいね...」
「さすが銀行勤め...おいで、こっちだ」
大野さんに手を引かれ映画に出てくるような銀行の受付の人に声をかけた。
「今、下に降りてくるって」
櫻井さんが降りてくるまで二人でロビーで待つことにした。
「君と離れた時に、すべてを思い出した時にね、物凄く怖かった。」
「怖かった...？」
「それを告げた時に君との関係が変わってしまうんじゃないかって。それから...こんな感情、知らなかった」
ソファーに横並びに座りながら大野さんは俯いてそう言う。
「でも...それ以上に、大野さんは悲しみを知ってるから。人に優しくできるんだよ」
「そうかな、ただこの世から消えただけなのに。他には何も...持ってなかった」
返す言葉もなく、口をつぐんでいると私たちの後ろから声が響いた。
「お二人さんっ、」
「お、翔くん」
「櫻井さん、お疲れ様です」
−−−−−−−−−−−
「サンドイッチ、ありがとな。昼食べないとやってらんないからさ」
「ふふ、次は忘れないようにするんだよ」
「うん。んじゃ二人とも気をつけて」
「はい、お仕事頑張って下さいね」
紙袋を持って嬉しそうな櫻井さんに手を振って、銀行をあとにした。
−−−−−−−−−−−
「あ...、」
玄関のドアをノックする音が聞こえ、ドアを開くと、目の前にいる姿に口をつぐんだ。
「久しぶりだね。」
「...うん、久しぶり」
優しく笑ったレオが手に持った紙を私に差し出す。
「サイン、お願いできるかな」
「あぁ...もちろん」
「今日は伯爵はいないの？」
「えっ、と...どうして？」
「少し気になっただけだよ。最近、姿を見てないから」
「そう...」
サインを終えて、ペンをレオに差し出すとそのまま腕を引かれて、二人の距離が縮まった。
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作者名：yui_。 | 作成日時：2018年10月14日 18時
