女として生まれた俺は男として生きることになりました 弐

泣いていいんだよ。 ※善逸視点 ページ46

お坊さんの話しを聞いていた時、いつもは他の人より静かで凪いでいる羚凰の音が突然爆発したように溢れ出した。

いつもの優しい音とは似ても似つかないそれは、轟々と鳴り響いていて、様々な感情からできていた。




悔しさ、悲しさ、やるせなさ、怒り...その色々が何処とは言えない別々の方向に向かって錯綜していた。


一度それが溢れて、その後昔羚凰からしていたようなギリギリという我慢の音が聞こえた。

羚凰が感情を抑え込む音だ。



心の中で荒れ狂っている攻撃的な感情が、できるだけ周りの人に向かないようにするための。






お坊さんと別れた直後、もう押さえ込んでも感情が零れそうになっている羚凰の手を取って、人気のないところに連れて来てぎゅっと抱き締めた。


すると、堰を切ったように羚凰から涙と感情の音が流れ出してきた。





さっきのお坊さんの話しは、俺の理解の範疇なんか軽々越えるような衝撃的な内容だった。

終始オロオロすることしか出来なかった。




ここの町では代々ああやって古い伝統を繋いできたんだろう。

それ自体が人々の心の拠り所だったんだ。




その気持ちはよくわかる。各地でそういった信仰があるのは自然な事だし。


でも...それにしても、荷が重すぎやしないか？




他の先祖返りさん達は小さい頃からそう言い聞かされてきて、自覚と志を持てたかもしれないけどさ...羚凰は違うじゃんか。

何も知らずに生きてきたんだ。



自分が他人とちょっと違うことを自覚しながらここまで生きてきてさ、いきなり｢あなたは名のある一族の先祖返りで、特別なのよ｣なんて言われて、正気でいられないだろ。

俺は無理。




平然と、ああそうですかなんて絶対言えない。





今まで溜め込んでた気持ちが今ちょっと溢れてるだけ。

だから、泣いていいんだよ。






誰が悪い訳でもないから感情を向けるあてがないのなら、ここで全部吐き出していけばいいじゃない。


抱きしめるくらいしか出来ないけど、それでちょっとでも楽になってくれるなら俺、すっごい幸せだよ。

そんな所も好きだから。→←悔しくて、虚しくて。

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