3. 選択 ページ6
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2012年、５月。
清華と別れたAは、傷心を抱えながらも欠かさず学校へ行き、スタジオに通う毎日を送っていた。
そんなある日のことだ。
授業で、進路相談が行われた。
性の問題を抱えているAにとって、先生から与えられるアドバイスは耳が痛いものだった。
社会は厳しい。
性の問題を抱えているために、仕事を失った人が沢山いる。
社会に出たら、嘘でも女らしく生きなさい。
それができれば、とうにやっている。
暗いダンススタジオの一室で、Aは電気もつけずに一人膝を抱えていた。
「あれ、まだ帰ってなかったのか」
扉が開く音がして見ると、トレーナーが立っていた。
「もう施錠の時間だぞ？」
「先生。いえ、もう帰ろうと思ってたところです」
Aはいつもの微笑みを浮かべて、言った。
「……なにか、悩みごとでもあるんだな」
先生はそう言って、部屋の電気を付けた。
「……どうして、分かるんですか」
「今日のお前を見てたら分かる。ダンスが、苦悩を表現していたから」
どうやらトレーナーにはお見通しだったらしい。
中学時代からお世話になっている人だ。
いくら表情や雰囲気を取り繕っても、ダンスで見抜かれてしまう。
『感情の抑制と解放を表している』と、大会の審査員から太鼓判を受けたAのダンス。
女として生まれ、男として生きてきたAの中にある、抑圧的な感情と、爆発的な感情。
複雑なものを抱えるAにとって、ダンスは自己表現そのものだ。
だからこそ、トレーナーには分かるのだ。
微笑むAの中にある、本当の感情が。
「まだ引きずってるのか？ 清華ちゃんのこと」
「え？まぁ……」
勿論、それもある。
だが、いつかそんな日が来るだろうと構えていたAにとっては、悩んでも仕方のないことだった。
だから踏ん切りはついている、はずだった。
「……なるほどね。女と付き合うのは将来が不安だって清華ちゃんに言われて傷付いていたところに、学校でそう言われて、ダブルパンチだったわけか」
Aの気持ちをそう要約した先生は、溜息をついて黙り込んだ。
「なぁ、A」
しばらくして口を開いた先生は、ポケットから小さく畳まれた紙を取り出した。
「これ、受けてみないか」
「……“防弾少年団プロジェクト”？」
紙に書かれていた見出しを読み上げ、Aは首を傾げた。
「お前がお前らしく生きる道が、ここにはあるかもしれない」
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作者名：グミカン | 作成日時：2019年10月14日 2時
