序章 あなた ページ1
序章
--
“あなた”はまるで、蓮花のような人だ。
水面に浮く色濃く大きな葉は、不安定な世界に力強く立ち続ける“あなた”の両足のよう。
淡い桃色の美しい花は、人形のような美しさと人間らしい魅力を兼ね備える“あなた”の容姿のよう。
そして水面の波に揺れ動く蓮花の姿は、“あなた”そのものだった。
***
1996年1月2日生まれ。
大阪在住。
A型。
性別は、女。
2010年代。
日本の音楽といえば、大人数の少女による合唱のようなものか、チャラそうな青年が集団で踊るEDMか、洋楽かぶれの安っぽいバンドが主流の時代。
アイドルは、ダンスや歌が酷い。
ダンスボーカルグループも、何かとチャラついていて動きが揃っていない。
バンドはバンドで、売れる曲と言えば洋楽の二番煎じで、サウンドも薄い。
数年前まで日本の若者をざわつかせていた韓国のアイドルグループの方がよっぽどいい。
だからAは、日本の音楽を遠ざけていた。
ウォークマンから流れる音楽は、知人から教えてもらったヒップホップやレゲエ、エレクトロばかり。
それ以外で言えばジャミロクワイなどの、アシッドジャズやファンクを聴いている。
Aは小さい頃からとにかく、音楽が好きだ。
歌うことも演奏することはもちろん、作ることも大好きだった。
そしていつしか、踊ることが一番好きになっていた。
小学生の頃に友人の誘いで小さなダンスクラブに入ったことがキッカケだった。
ダンスにのめり込んだAは、暇さえあれば感情のままに身体を動かし、その才能を発揮していった。
中学生のダンスバトル府大会で優勝。
全国ダンス大会では高校生部門にただ一人中学生として参加し、優勝という異例の結果を出した。
そうしていつの間にか巷では、Aの存在が有名になっていた。
Aの才覚に気付いたいくつかの芸能事務所は、我先にとアプローチを仕掛けた。
テレビ局や雑誌も、取材を受けたいと押し寄せた。
けれど、Aはその全てを拒絶した。
人形のように整った顔を、柔らかく緩ませた微笑みで。
眉を少しだけ下げて、優しい声音で。
「すみません……。そういうのは、お受けできないんです。
……なぜって？
……それは、その…………僕は」
――僕には、私には、“欠点”があるから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 502人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「BTS」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：グミカン | 作成日時：2019年10月14日 2時
