4話 ページ4
〜アルバート〜
本当はいつも行く店に連れて行きたかったがAさんを萎縮させたくなくて、そこそこ雰囲気の良い店を選んだ
周りの目を気にしてかずっと俯いたまま
困ったな
正直言って私はAさんの顔が見たい
ずっとその体勢でいられるのは嫌だ
アルバート｢僕との食事はつまらないかな？｣
｢そういうわけでは……｣
アルバート｢心配しなくてもここは僕の奢りだし、ここにはあくまでも友人として誘ったんだ。やましい事なんて無いんだから堂々としていよう？ね？｣
そういう事ではないと言いたそうだが、それには気付かないフリをして軽く顎を持ち上げた
｢アル、アルバート…様……｣
唇を親指でなぞって、そのまま口の中に入れようとするとタイミング悪く料理が運ばれてきた
アルバート｢さ、食べようか｣
｢やっぱり私、帰ります｣
アルバート｢どうして？あ、この店が気に入らなかった？｣
｢本気で
驚いたような、ありえないとでも言いたそうな表情
この店じゃないとすると……
他に何かAさんが帰りたがる理由が？
私が仕事終わりの恰好だから？
Aさんに限ってそれはない
ダメだ。全く分からない
アルバート｢料理が冷めてしまうよ。そうだ。Aさんの婚約者のことを知りたいな。どこで出会ったのかな｣
｢彼は……あ、っ……幼馴染みで｣
アルバート｢へぇー。で？｣
｢え？えっと……それで付き合うようになって｣
アルバート｢それは僕と出会う前？｣
｢だって数年前の事ですから｣
アルバート｢そう。それより……あぁ、きた｣
｢ケーキ……？｣
アルバート｢是非食べてみて感想をお願いできるかな｣
今日の目的はこれだ
食事は二の次
どうしてもケーキの感想を聞きたかった
貴族令嬢がこぞって贔屓にする店の一番人気
Aさんと彼女達は全く違う生き物で、味覚が同じじゃないかもしれない
“失敗”するわけにはいかないんだ
｢ん、これ……美味しいです。すごく｣
アルバート｢本当に？僕に気を遣ってない？｣
｢本当です。こんなの食べたことない｣
アルバート｢それは……よかった｣
あんなに警戒していたのに幸せそうな笑顔でケーキを頬張るAさんが愛しくて、片時も忘れないようにこの目に脳に焼き付けた
他の女性では決して味わうことのない感情に、つい零れてしまう笑みを隠した
やっぱり私はAさんの笑う顔が好きだ
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作者名：まゆ
| 作成日時：2021年9月29日 21時
