【アルスマグナ】勝手に親衛隊 短編集

『ペット卒業』 朴ウィト ページ44

「ウィト、待て」
「えぇ！またぁあ？！」

そう言って顔を近付けて来た彼の前に手を翳せば、手の前で止まるしかめっ面で愚痴る大型犬系男子、朴ウィトは私の彼氏である

「もう！何でキスさせてくれないんですか！」
「それは秘密だってば」

また、しかめっ面に戻る彼が可愛くて、それを見るのが楽しいのと、単純に私が恥ずかしいと言うのが理由だ

というか、おかしいのは私ではなくウィトの方だ
彼は所構わずキスをしたがる所謂、キス魔なのだ
ハーフだからしょうがないとは思うが、生粋の日本人である私に所構わずキスをされる強いハートを持てと言う方がおかしい
それに彼は日本生まれ日本育ちなのに何でシャイな心がないんだ
告白されたのだって体育祭での借り物競争だった
その時はお断りしたのだが、それ以降、彼からの猛烈なアタックに私が負けてしまった

そんなこんなで付き合い始めて3ヶ月
やっと彼の扱いが分かってきた
押しは強いが優しい彼は私が嫌がることは絶対にしない

人前でのキスも私が恥ずかしいから止めて欲しいと言うと、それからピタリと無くなった
が、今度は2人きりになった時が大変になった
一度キスをされると一回に留まらず、二回三回と止まらないのだ
それから少しして"待て"を見付けたのは大正解だった
今もこうして大活躍である

ホッと一息ついて、帰ろう？と寮への帰路を進むが彼が来ない
不思議に思い、ウィト？と彼の顔を覗き込むと今まで見たことのない悲しそうな顔をしていた

「ウィト、どうしたの？」
「A先輩は僕のこと嫌いですか？」
「え？何で？私、ウィトのこと好きだよ？」
「じゃあ何で一度も好きって言ってくれないんですか？最近はキスも嫌がるし...」

確かに私は付き合う時も付き合い始めてからもウィトに好きとは言ってなかった

決してウィトが嫌いなわけではない
彼が真っ直ぐ向けてくれる想いや彼の優しい人柄に惹かれて好きになったが、恥ずかしくて伝えたことは一度もなかった
キスだって嫌なわけではないが、恥ずかしさのあまりドキドキし過ぎるのだ
しかし、きちんと伝えなかったせいで彼を苦しませてしまった

「結果ウィトを傷付けてたんだね、ごめんなさい」
「じゃあ僕が嫌いなわけじゃないんですね？」
「うん、大好きだよ」
「キスもしていいんですね？」
「んー、回数を減らしてくれるなら、んっ！」

獣の眼をした彼からの久しぶりのキスは噛み付く様な優しく甘いキスだった




『もう"待て"は聞きませんよ？A先輩』

『そっちは右手』 九瓏ケント→←『お客様、出口は回れ右をされると御座います』 泉奏

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