【アルスマグナ】勝手に親衛隊 短編集

『I want Sweetness than Bitterness』 泉奏 ページ30

「今日はバレンタインデーだね奏君」

仮屋崎ちゃん達が没収して来たチョコが入っているであろう可愛らしくラッピングされた小箱や小袋達の整理に忙しい彼に話しかけたら、そうですねと素っ気ない声が返ってきた
放課後になって彼氏の奏君が風紀委員長としての仕事に集中し始めて約2時間
辺りはもう真っ暗だ
風紀委員にバレないように今日1日死守した物を渡したくて彼の仕事が終わるのを待ったのはいいが、何しろ量が多くて終わる気配がしないし、この2時間放ったらかしにされ続けている
時計の針が進む毎に寂しさが募って行く

「今日チョコを渡してた女の子達可愛かった？」
「そうですね」
「風紀委員だからって全部断ってたけど本当は嬉しかった？」
「そうですね」
「じゃあ私のチョコいらない？」
「そうですね」
「..私のこと嫌い？」
「そうですね」
「じゃあ別れようか」

そう言って私は鞄を持って席を立って扉に向かう
奏君なんて知らないあんな某終了した人気お昼番組の返答しかしない馬鹿眼鏡なんか大嫌い
遠くで奏君が私を呼ぶ声が聴こえた気がするが、無視して廊下を走る
階段を駆け降りて下駄箱に辿り着くという所で誰かに後ろから腕を引かれ正面から抱き締められた
顔を見なくてもこの腕はよく知っている

「離してよ！」
「離しません」
「私のこと嫌いなんでしょ？！だったら離してよ！！」
「Aが好きだから何と言おうと離しません」
「私は大嫌いなの！」
「じゃあ何で泣いてるんですか」

その言葉と共に顔を上げさせられて彼と目が合う

「本当に大嫌いならおれの目を見て言ってください」

私の心を見透かす様に真っ直ぐ見詰められてまた涙が溢れて来る
何も言えないでいると奏君が口を開いた

「さっきはちゃんと話も聞かずに適当な返事ばかりしてすみませんでした
おれはAが好きですし、Aに離れられたらどうしていいか分かりません」
「...本当に、嫌いじゃない？」
「今更Aを嫌いになんてなれません」
「嘘じゃない？」
「Aに嘘はつけません」

面倒臭い女だと思ってない？
そう聞こうとしたら彼の口に塞がれる
それを大人しく受け入れて目を閉じ、彼の背中に腕を回す
少しして離れられたら彼に手を取られて階段を上る
ふと彼が何かを思い出した様にこちらを振り向いた

「今年はくれないんですか？チョコ」
「風紀委員には怒られるからあげない」

そう返すと彼はじゃあ没収ですねとまた私の口を塞いだのだった



チョコレートはまた明日

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