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27限目 ページ39

ーー


色んなセミの混ざった声がじわじわと聞こえてくる。


今日は何となく図書館に来た。本音を言えば、自室のエアコン代が勿体なくてちょっぴり遠出しただけなんだけど。本をちょうど借りたかったし、勉強も捗るかなと思って。


図書館のガラスの自動ドアを通り抜けると、頬を冷たい空気が撫でる。
さて、と空いている席を探す。これがなかなか見つからなくて、席はほとんど埋まっていた。

仕方ない、本だけ借りて帰ろ、と踵を返そうとすると


「だーれだ」


目の前が真っ暗になった。


『……っ、ちょ!幸村君!?』


図書室の中だから小さい声でそう言うと幸村君はくっくっと笑いながら手を離す。


「やぁ。A」


君も勉強?と幸村君は聞いてくる。


『そのつもりだったけど席空いてなくて』


そう言うと、幸村君はちょうど良かった、と私の手を引く。


「俺予約席なんだけどさ、2人用だから一緒に勉強しようよ」


数学、教えてあげるよ?なんて魅力的な誘い文句に釣られて、言葉に甘えて同席させてもらう。


そこは個室で、向かいあわせの席だった。


「……ふふ、2人きりだね」


幸村君は嬉しそうに言う。


『からかうつもり?』


「さぁ、どうしようかな」


幸村君はそう言いながら私の向かい側に座った。
冷房の風がちょうどよく当たる。


「……ね、あのさ」


プリントを解き進めていると幸村君が突然話しかけてくる。


「Aは立海の高校に進学する?」


進路の話を突然されて驚いた。


『……うーん、悩んでる、かな』


いくつかやりたいことが出来てしまっているし、そのために他校に進学した方がいい気もしていた。


「……ここにいてよ」


幸村君が少し力ない笑みで言った。


「いかないで」


『……幸村君、』


「……」


しばらく沈黙が流れた。


「……なんてね」


『な、冗談!?』


「人の進路にまではとやかく言わないよ、俺は」


幸村君は数学のノートの角にグルグルと円を書いている。


「でも、Aがからかえなくなっちゃうのは悲しいな、なんて」


『……』


幸村君の寂しそうな顔を見た。
でも直ぐに幸村君はまたいつものいたずらっ子みたいな笑みを浮かべる。


「……寝顔、見れないし?」


授業中よくうとうとしてるよね、なんて幸村君は笑っている。


『……っ、本気で考え直そうとしてたのに!』


「あはは」


結局夕方になるまで2人で勉強して、その会話の後はなんだかすごく気まずかった。

ーー

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向日葵 - 男女逆転なら男が姫役で女が王子役なんじゃないの?女が姫役、男が王子役だと男女逆転にならない気がするんだけど.... (2月23日 12時) (レス) @page10 id: 14452fdad1 (このIDを非表示/違反報告)
有山(プロフ) - のんさん» ぎゃー!返信遅くなり申し訳ないです…!コメントありがとうございます…( ; ; )幸村君が好きな子の表情が好きすぎて意地悪しちゃうのいいな!っていうただの偏見妄想小説でして…褒めていただき光栄…( ; ; )更新頑張ります〜!ありがとうございます! (2020年10月10日 22時) (レス) id: ffc96dd0b4 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 毎日更新お疲れ様です。こちらの幸村くんがとてもとても好きでコメントしたくなったので失礼します……!本当に好みの作品で毎朝幸せを貰っています。絵もお上手で羨ましい限りです……!これからも無理はしない程度に更新頑張ってください、楽しみにしています! (2020年10月9日 8時) (レス) id: d9f3c28035 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:有山 | 作成日時:2020年9月30日 15時

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