9BEAT ページ10
1人、暗くなった町を歩いていた。
旭に指摘された際、身体中から汗が吹き出そうなほど焦ったあの感覚が、今も体から離れない。
「ハッ…顔に出てんぞ」
軽く鼻で笑ったあと、少し顔を背けてそう言ったあいつに、俺は正しい返答ができたのか、分からない。
姉に比べ、俺は旭との付き合いは多いと思っていた。中高はクラスが同じで、大学のキャンパスでも、食堂やテラス、図書館では居合わせて会話をすることも少なくはない。
けれど、なぜだろうか。
どうして俺は、こんなにも旭那由多を理解しきれていないのであろうか。
存外優しいやつだということも、気の効くやつだということも、知っているつもりだった。
幼い頃から少なからず俺に気をかけてくれていたことも、とうに気がついていた。
ならばなぜ、あの時俺は、あいつが差し出した手を払い除けてしまったのだろうか。
「姉貴にいつも気に掛けられてるお前に、双子なのに見向きもされない俺の気持ちの何が分かるんだよ」
そんなことを言うために、勇気を出してお茶に誘ったわけではなかったが、その時の俺は、なにも考えていなかった。
全て知っていたのに見て見ぬふりを続けた人間が、今更優しい男になろうとするなど、到底無理な話しだったのだ。
それからと言えば、俺は机に千円札を置き「…悪い」と、意味のない言葉を吐いて店を出た。
自分から誘っておいてなんたる不敬かと問いただしたくなるほどの行為であるが、きっとあいつは、それを許してくれているんだろう。
旭の優しさに甘えた俺は、そのまま近くのカラオケボックスへと駆け込み、そして数時間経ってから店を出た。
歌を歌わず、液晶に映るアーティストの話し声やLIVEの紹介音声を聴きながら、黙ってSNSを眺めるだけの、ひどく無駄な時間。
こんなことならギターも持ってくるんだったと後悔しつつ、きっと今頃、他のメンバーは練習していることだろうと、それに少しばかり後ろめたい気持ちを抱きつつ、静かにスマホの画面を眺めていた。
本当は上京後にシェアハウスなどしたくないが、姉と他2名で決めたことだ。俺が口出しできることではない。
大体のことは覚えていると思っていたが、案外そうでもない出来の悪い頭自分のにそっと語り掛ける。
「姉貴にとって、俺は居ても居なくてもどちらでもいい存在だ。いたら便利なくらいで、ただそれだ」
何度目になるのかわからない言葉に、おもわず目眩がしてしまった。
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伏見 沙織☆(プロフ) - ごんさん» はじめまして、作品に目を通して下さりありがこうございます。更新ペースは不定期ですが、早く那由多との絡みはかきたいとおもっております(*´ω`*) (2020年7月9日 17時) (レス) id: 9d9b18ab89 (このIDを非表示/違反報告)
ごん(プロフ) - はじめまして!こんにちばんは!(o^^o)アルゴナビスのアニメハマって小説探してたらこちらに出会いました!(*^ω^*)那由多は大好きなキャラなのでこれからの絡みが楽しみです!(#^.^#)続き楽しみです!(*´ω`*) (2020年7月9日 0時) (レス) id: 7f8b6a2b90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:志賀アリス x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php?svd=sab
作成日時:2020年7月3日 2時