秋桜（by.ROOMS）6 (ページ30)

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「ふふふふ………」

「ん？なに？高橋さん」

二宮くん同様、忍び笑いをしていた私。
二宮くんが訝しげに訊いてくる。

「ん？なんでもないよ？」

………なんか。
気づいてしまった。

二宮くんが櫻井さんを「翔さん」と呼ぶ時と「翔ちゃん」と呼ぶ時の違い。

二宮くん自身も気づいていないと思うけど。
二宮くんが櫻井さんを、「ちゃん」付で呼ぶ時、二宮くんからは『大好き』が溢れている。
甘え、にも似た、心を開放しているサイン。

櫻井さんの肩を抱きながら、二宮くんがエレベーターの方へと進んで行く。
櫻井さんは、二宮くんに押されながらも、サトシさんを振り返ろうとしていて。
それが分かっていて、歩みを早める意地悪な二宮くんがおかしい。

そのやりとりを見て笑いながら、サトシさんを振り向くと、
サトシさんは、じっと、ドアの方を見ていた。

「…………！」

声もかけられずに、そんなサトシさんを見ていたら、
私の視線に気づいたサトシさんがこっちを見た。

「んふふ」

誤魔化すように苦笑して、サトシさんが私の方へ来た。

「いらっしゃい」

秘密めいた響きを持たせて、サトシさんが言ったから
「お邪魔します」と小さな声で返す。

入り口まで、たった5m程の距離。

扉は、わずか10cm程の隔たり。

それが、サトシさんを世界から切り離している。

この扉をサトシさんが開くのはいつだろう。
どんなきっかけで開けられるのだろう。

そんなことを思いながら、サトシさんとエレベーターの方へ進んだ。