BLACK『完結』

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父さんの車も、母さんの車も無かったってことは、駅まで誰かを迎えに行ったか、送りに行ったか、だと思う。

祐樹が死んでまだ、1週間ちょっと。
納骨までは、親戚たちの訪問が絶えないだろうから。


「うん」


智くんが、そう言ってノソノソと立ち上がった。
申し訳ない気持ちいっぱいで、玄関へ進み靴を履く。


「駅まで………送って行ってもいいかな？」


「ん。………お邪魔しました」


ガレージで自転車に鍵を差し込んだ智くんは、少し考えるようにしてから、自転車を引き始めた。
………跨らずに。

カラカラと回るタイヤの音。
ゆっくりのペースで歩く智くん。

県道に戻りバイパスへ出て、川沿いを歩く。
歩いて行ったって、駅までなんて、きっとまたあっという間。

なんとなく、まだ一緒にいてほしくて、河辺の石畳みに座ったら、思惑通り、智くんが隣に座ってくれた。


「あ、そうだ。コレ………」


そう言って、左ポケットからルアーを取り出す。
祐樹が作っていた、キラキラと光るルアーを智くんに差し出した。


「ん？」


「………コレ、ワカサギ用に祐樹が作ってたみたいなんだ。
智くんと、俺と、自分の分と、3つ。
………祐樹、急過ぎて、手紙とか、遺したもんとか何もなくて。
だから、コレ、形見として持っていてくれないかな？」


そう伝えると、智くんは嬉しそうに笑みを見せて、それを受け取ってくれた。

太陽の光が、川の水面と同様に、祐樹のルアーをキラキラと揺らす。
柔らかな光なのに、眩しいくらいの輝きを視界に入れながら、智くんの存在を感じていた。


「智くん」


「ん？」


「ずっと、見舞い、ありがとう！」


「んー………」


「マガジン、ありがとう」


「んー…」


「紅葉狩り、ありがとう」


「………」


「智くんが………ワカサギの日にち、決めようって言ってくれて、俺、嬉しかった。
ゆ、祐樹も、絶対そう。
祐樹の………希望だった、絶対。
あいつ………ちゃんと………夢を。
俺たちと、外出する、夢をっ！！」


途中で、涙が出て。
言葉が、何も………

智くんの腕が俺の肩に回されて、ぽんぽん、と叩かれる。
今日、友人にやられた時は、触れてくれるなと思ったのに、その心地よい体温とリズムに、胸があたたまる。


「翔くん」


「うん？」


「何も、できなくて、ごめんね」


智くんが唐突に、謝罪の言葉を口にした。

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