BLACK『完結』

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「この間、やっぱり行ってよかったね」


窓の外を見ながら、祐樹がポツリと言った。

1週間ちょっと前、プチ脱走感で決行した紅葉狩りは、結局、コト無きを得て。
俺たちは揃って、拍子抜けした。

なんなら、ちょっと看護師長あたりに見つかったりして、
すこし手痛く絞られた方がよっぽど楽しかったかもしれない。
連帯意識を強める、という意味で。


「やっぱりドアは閉めて行くべきだったかなぁ」


呟いた智くんの言葉から、智くんも俺と同じ気持ちだと知り、笑った。

ギリギリ感が楽しいって言う、複雑な男子心理が、そこにはあって。
後で思い返した時も、純粋な『紅葉狩りだった』だと、ちょっと冒険心が足りない。
まぁ、アレはアレで楽しかったことは否めないけど。

この2週間足らずで、風が随分と装いを変えた。

日中は相変わらず日射しはあるし、それなりに暖かい陽気なんだけれど。
俺と智くんが来る時間帯になると、さすがに冷え込みを感じ、イタズラに外へ出るにはリスクがあり過ぎる。
祐樹も、3人で外へ行くタイミングはしばらく訪れないだろうことを認知していて。
それでも、前向きに
『行ってよかった』と捉える思考は、やはり大人びていると思えた。


「大野サンはさぁ、
行きたいとことかないの？」


祐樹は、たぶん、自分の中で外出したい気持ちをたくさん抱えていて。
その葛藤を大野サンに託すことで、昇華を試みているようにも思えた。


「行きたいとこ？んー、釣り」


病室で差し出された丸椅子に座り、紙パックのココアをチューチューと吸いながら、大して悩むことなく口にする智くん。


「釣り？」


………智くん。それ、『行きたいとこ』じゃなくて、『やりたいこと』だよね？
まぁ、分からなくもないけど。


「いいなぁ！俺もやってみたい！
いつか、一緒行ってい？」


キラキラ瞳を輝かせながら、祐樹が言う。
智くんは「んふふ」と笑ってから言った。


「ダメぇ」


「「エ？」」


まさかの返しに、祐樹だけじゃなく、俺まで凍りつく。
釣りって智くんにとって、そんな聖域なのか。


「『いつか』はダメ。
ちゃんと日にち決めよ？」


智くんの言葉に、視界がパアッと明るくなる思いがする。
本当に、この人の考え方は逸脱していてすごい。


「じゃ、まず、何釣りたいか、決めよ？
んで、その時期、決めりゃいーじゃん」


智くんが吸っていたストローが空気を取り込み、ベコッと鳴る。

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