BLACK『完結』

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「………祐樹が退院するまで？」


智くんがキョトンとして固まったあと、柔らかく微笑んだ。


「ん」


智くんの壮大な計画を知って、唖然とする。


「迷惑、なわけないでしょ。
………でも、大丈夫なの？
毎日って、結構、大変だと思うよ？」


かなり足繁く通っていると自負する俺だって、平均すると2日置きくらいのもんだ。
20分程度の面会とは言え、毎日となると費やす時間は大きい。


「ん。だから、祐樹には早く良くなってもらう」


智くんがそう言って、前を見た。
無茶苦茶だな、と思うけど、智くんのその考え方は、とても嬉しかった。
………すごく、俺の気持ちを救ってくれたから。


「………わかった。俺も行く。
一緒行こうっか、毎日。
晴れの日は2ケツで、雨が降ったらバス乗り継いで」


「翔くん、2ケツ平気なの？」


「だから、平気だって！
そんな信用ないなら、俺に運転させて、アナタが後ろ乗ればいいじゃん」


「ヤダよ。後ろ。なんか疲れそうだもん」


だもん、て。
その後ろに乗せられる俺ってどうなんだか。
文句の一つくらい言いたいとこなのに、俺は今、笑みしか浮かべられそうもない。


だんだんと街が開けて、駅ビルが見えてくる。
車も人も、交通量が格段に増えてきて、2人の時間もあとちょっとになる。

結局、智くんはずっと自転車に跨ることなく、引き続けてくれて。
2人で過ごす30分なんて、あっという間なんだと知った。

地下鉄のロータリー前で2人同時に歩みを止める。
智くんの自転車カゴから自分の鞄を取り出し、「ありがとう」とお礼を言うと小さくコクン、と智くんが頷く。
それから、智くんは素早い動作で自転車に跨り、ペダルに足をかけた。


「じゃ、また、明日ね、智くん」


「ん。バイバイ、翔くん」


「あはは。バイバイ」


言うが早いが、大きく一漕ぎして、颯爽と去っていく智くん。
その背中をしばらく見送ってから、俺も歩き出す。
何か、達成感に似たものを持ちながら。


「あ、………雨？」


ふと、首筋にヒンヤリとした感触があり、手で水滴を拭う。

ポツ、ポツ、ポツ………
乾いた地面のあちらこちらに、黒い染みができていく。

風が、一度、強く吹き抜ける。

ザァァァ、
本格的に降り出した雨が街全体を包み、激しく跳ね返る水飛沫に道路が霞がすむ。


智くん、あまり濡れずに帰れるといいけど。


何かこみ上げてくる優しい気持ちのまま、空を見上げていた。


………明日は、バスで行くことになりそうだな。

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