拾ってください【短編集】【BL】 (ページ29)

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"くうそう"ゆき Part.3【Sn 桃×緑】ページ29

(abside)

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「あの列車に乗って逃げちゃおっか」

君の言葉を合図に、空に浮かぶ列車に乗り込む。
下にはレールなどなく、乗った重みで車体が少し揺れる。
車内は至ってふつうの列車と変わらず、少し前の列車のようで。レトロな雰囲気を醸し出していた。
どういう原理で動いているのか、誰が作ったのか。なんて疑問が頭の中に浮かんでくるけど、そんなことを考え出してしまえばせっかくの雰囲気が台無しだろうと、考えないようにしておいた。
隣ではしゃぐ彼を諭しながら、席に座るように促す。
幸か不幸か分からないが、乗っている人達は自分たち2人以外には誰もおらず、アップテンポの曲がオルゴールのような音で流れている。
香水かなにか分からない、爽やかな香りが車内に漂い、窓や、扉の隙間から漏れ出る。
いつ出発したのか、外を見てみると真っ白な雲が広がっていて。
この列車がどこに向かっているのか知らないけど、そんなこと正直、どうでもよくて、あそこから逃げられればなんでもよかった。
この先のことに不安を抱きつつも乗り込んだこの列車。きっと、隣にいる彼は、この先のことなんて全く考えないだろう。外の景色を見ては目を輝かせている。
「ねぇ、あべちゃん！」
不意に名前を呼ばれ、振り向けば、窓から身を乗り出している彼がいて。
「すごいよ！外、キラキラしてる！」
なんて、満面の笑みを浮かべる。
あまりにも見てほしそうにこちらを見るものだから、同じように身を乗り出すと、目の前には一面の雲とキラキラと輝くモノ。
何が光っているのかは分からない。空に浮かぶ列車があるのだから、きっとなんでもありなんだろう。諦めるように笑えば、ぽつりとつぶやく。
「…きれいだね。」
たくさんの風を受けて靡く彼の髪は、落ちかけた金色から時々黒色が見えて。それが、とても美しくて、またきれいとぽつり呟けば、ふわりと彼が笑う。
「でしょ！」
彼は片手で軽く髪を押さえて、自慢げに笑う。
彼は2度目のきれいの意味を分かっていないであろう。
「さくまのじゃないじゃん」
なんで自慢げ？なんて笑いながら。
「俺が教えたんだもん！」
…さくまに対して言ったんだよ。
なんて言ったら調子に乗りそうだし、何より、恥ずかしいから心の中にしまっておく。