ありきたりのラブ・ストーリー 2《Sato Shori》 (ページ8)

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冬 6 ページ8

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山を登り、景色が広がる。

「すごく綺麗でしょ？」

俺がそう言うと彼女は俺の首筋に顔を埋めた。

「なに？どしたの？」

俺がそう聞くとズズっと鼻をすする音が聞こえた。

「A？泣いてるの？」

「泣いてない」

「…じゃあ顔上げて。この空を一緒に見よう？」

Aは目をこすって
空を見上げた。

そして呟いた。

「生きてきた中で一番綺麗」

「ほんと？」

「うん。ありがとうね勝利。

私も、少し歩いていい？」

俺はそっと彼女を下ろした。

ガクガクと震える足。

俺にしがみつく華奢な腕。

「A大丈夫？ゆっくりだよ」

「ん…分かってる。」

俺にしがみついたまま
ゆっくりゆっくり踏み出す1歩。

そして5歩くらい歩いたとき、
Aが倒れそうになったから俺は慌ててAの体を抱きしめた。

俺に全体重を預けるようにして座り込む。

俺も一緒にしゃがんだ。

そしてAは泣き出した。

「勝利、ごめんね。こんなんで、ほんとにごめん…ね…っ」

俺は彼女を見て悔しくなった。
何にもしてやれない自分、何にもしてくれない世界。

「私、勝利のこと好きなの…ほんとにっ」

俺は彼女を抱きしめた。

もう泣かなくていいよ、って言葉にするよりも先に
体が動いた。

もう、泣かないで。
俺に全部ぶつければいい。

どうせなら、俺にその病気をうつして
それで一緒に死ねばいい。

いっそのこと、この海に飛び込んで
息の根が止まるまでふたり海の世界に潜ればいい。

大丈夫だよ。

君はひとりじゃない。

そう言葉にすればいいのに
恥ずかしくてできない俺は

まだまだ、子供で

そんな俺を分かっていながらも笑いかけてくれる君も

まだまだ子供だってことを二人で確認して笑おうよ。

星の中、波の音、冷たい風に包まれて

消えそうなキスをした。

このキスで君の病気を半分もらえないかな、

なんて

まだ考えていた俺がいた。