新 人 執 事 ≪ Daiki.S ≫

執事09. ページ9

お気に入りのワンピースを着て夕食の場へと向かう。

今日はお父さんもお母さんもいて賑やかな食事になりそうだ。









「A様、似合ってますね」


『へへ、神山ありがとう』



神山に褒められてまた嬉しくなる。

そっと席に腰掛ければいつものように料理が運ばれてきた。









今日は近所の方からたくさんパンを頂いたみたいで。

テーブルの上はパンでいっぱいだった。



サラダも食べて笑いが絶えない食事。

私の隣に立つ神山も笑みを浮かべていた。









「最後の料理、ビーフシチューです！」



"熱いですよ〜！"なんて言いながらビーフシチューを持ってきた重岡。

そんなビーフシチューをお父さんとお母さんは嬉しそうに受け取っていた。





そしてそのまま重岡がこちらにやってきて。

"どうぞ！"という声とともにがしゃんっという音が鳴り響いた。









私は一瞬何が起きたか分からなかった。

目に映ったワンピースはビーフシチューでいっぱいになっていた。







「も、申し訳ありません！！」


「A様、火傷されてませんか？」



隣から聞こえる必死に謝る重岡の声と私を心配する神山の声。

お父さんとお母さんも"大丈夫？"と言いながら心配そうにこちらを見つめていた。






火傷なんてどうでも良かった。

私はただ…このワンピースを汚されたことがショックだった。



……お気に入りやったのに。









『このワンピース…お気に入りやったのに……』


『もう着られへん……』



私の言葉に"クリーニングに出せばまた綺麗になりますよ"と言ってくれる神山。

溢れ出てきた涙がポタポタとワンピースに流れ落ちた。









「A様、ごめんなさい…」



隣で申し訳なさそうにただただ突っ立っている重岡。

必死で床やワンピースを拭いてくれている神山に申し訳なくなった。




何なん、そんなこと言っといて何一つ成長してないやんか。

一人前の執事になるって言ったのに。









『もういい、あんたの顔なんか二度と見たくない』



そう言い残して私は早足で部屋へと向かった。

せっかく楽しい気分やったのに…最悪の気分だ。









『重岡なんか大っ嫌い……』









17歳の夏、私は初めて執事を嫌いになった。









溢れてくる涙はなかなか止まってくれなかった。

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