嫌い1 ページ1
『あー･･･だるい』
そう言った彼女は今、屋根の上に寝そべっていた。
黒く艶やかな髪に、整った顔立ちをしている彼女はたったいま、嫌な仕事を終わらせた後だった。
『ーーー･･･はあ』
先程の仕事の事を思い出し深い溜め息を吐く。身体を起き上がらせ、ふいに赤く染まる自分の右手を見た。
それだけで、心の底から吐き気が湧き上がってくる。
『もう、終わろう』
ボソリと呟いた言葉は空中を舞う。
誰にも聞かれることのないまま、それは消えていった。
ーーーと、思っていた。
「何をだい？」
ぎくりと肩を震わせて後ろを振り向く。
まさかとは思ったが、想像していたそいつが真後ろに立っていた。
表情からは何を思っているのか全く読み取れない。
『･･･何でもない』
「そう？」
『そうだって、もういいからほっといて』
「ふーん」と言って此処を見てくるそいつは心底つまらなそうだ。
ーーだったら早くどっかに行けばいいのに･･･
そう思うが、私はそれを口に出さない。
こいつは、私の言葉の意味を今でも頭の中で考えている。
例えば私が必死に話をそらそうとすれば、何かがあると勘づかれるだろう。
『･･･帰る』
「送ってくよ？」
『いい』
"一応"気を遣うそいつにイライラしながら、私は立ち上がった。
自分の横を通り過ぎる私をじっと見つめ、「僕、何かした？」と聞いてくる。
ーー･･･何かした？じゃないんですよ。私はあなたの事が好きではないのでこういう態度をとっていたって何ら不思議ではないんですよ。
『何も、ただ･･･私も暗殺者なんだし、送ってもらわなくても大丈夫ってだけ、じゃあ』
そう言い捨て屋根の上から華麗に飛び降りる。
早くあいつの側から離れたくて、急いで家に帰った。
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作者名：アリエス | 作成日時：2018年12月23日 23時
