大ちゃんは、俺のだから。-second-【ar×ym】 (ページ11)

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『おい、ブスつ！』

前方から声が聞こえ、顔をあげる。

この声はよく知ってる。

もっと言えば、俺のことを「ブス」って

呼ぶやつなんて、アイツだけだ。

ヤツは俺の方を向いて、待つべき場所で

俺に手を差し出していた。

ym 「あともうちょっとだから、頑張れ！！」

…なんだそれ。

山田のくせに。

そんなこと言われたら、無性に泣きたい気持ち

になるじゃんか…バカヤロー。

俺はバトンを拾い、立ち上がる。

不思議なことに、そのとき痛みはなかった。

むしろ、足取りが軽くなる。

〝頑張れ！！〟

…なんなんだよ、ほんとに。

そう思ったけど、とにかく最後まで

一生懸命走った。

きっとこの走りは、今までで一番、

頑張ったと思う。

俺を待っててくれた山田に、

思いっきりバトンを手渡す。

パシッとした音が、乾いた空気のなかで響く。

ym 「よく頑張ったね」

それは、二人が繋がった音。

…ほんと、意味わかんねぇ。

なんでこんな時だけ、そんな優しい事言うんだ

ダセェとか、言えばいいじゃん。

どうせなら、いつみたいに俺の事バカにしろよ

そんな俺の気持ちを知ってか、知らずか、

山田は風のように、走っていく。

『大ちゃん！コケたとこ大丈夫！？』

心配して駆け寄ってきてくれた

メンバーの声も聞こえないくらい…

俺はアイツに見入っていた。

胸がキュッと、つかまれたみたいに。

喉の奥が暑くて、息ができなくなりそうだ。

「山田…すごい速い」

周りにいたメンバーも、山田の走りに

魅せられていた。

山田って、本当に何でもできる天才なんだな。

顔だけじゃなく、運動もできて…

そして、俺を惑わす天才だ。

ゴールテープを切った山田を見ながら、

ひそかにそんなことを思っていた。

kt 「本当、山田ってすごいね…」

圭人は俺の隣でポツリと呟いた。

俺はそっと、自分の膝に視線を落とす。

こけたところは血が滲んでいて、

悲惨なことになっていた。

「圭人ごめん。俺、消毒してくるわ」

kt 「えっ。あ、うん。僕もついていこうか？」

「大丈夫。ありがとな」

ニッと笑って見せて、俺はその場を離れた。