QK看病日記

言えないSOS-ymmt-＊* ページ29

山本side
まただ。嫌でも聞き慣れてしまった足音が、また聞こえ始める。オフィスから帰るときも、大学に行くときも、最近ずっと背後からの視線を感じていた。

「……っ、」

犯人はわかっている。どうやって調べてるのか分かんないけど、いつもこうやって同じ電車に乗ってきて、ずっと近くにいるあの男の人。今も周りの人が気づかないくらい自然に、僕の脇腹や太腿に触れてくる。

電車を降り、オフィスに早足で向かう。今までオフィスまでついてきたことはなかったから、僕は油断していた。横断歩道で止まった瞬間、肩に腕が回される。隣を見ると、あの男の人がいた。

「っ、なん、ですか、」

「やっと話せたね」

嫌だ。怖い。全身から冷や汗が出て、貧血になったみたいにふらふらする。

「怖がらないでよ。何もしないから」

何もしない？現在進行形でしてるじゃないか。相手を刺激したら体格の差で絶対に僕は負ける。だから、とにかく逃げることしかできなかった。横断歩道が青になった瞬間、震える足で地面を精一杯蹴る。

「あ、おいっ！」

後ろで何か言っているのが聞こえたけど、そんなことは無視して、ひたすら全力で走った。

「はぁっ、はぁっ」

オフィスのビルに駆け込んで、背後でエントランスのオートロックがかかるのを聞いて、安心して足の力が抜けた。鍵が開けられないから、仮に追ってこられていたとしても、ここなら安全だ。急に走ったせいで、胸のあたりが痛いし呼吸も苦しい。下を向いて何度も深呼吸を繰り返した。



こうちゃんside
「こうちゃんも何も聞いてないの？」

福良さんからの問いかけに頷く。山本さん以外の動画メンバーで話していたのは、最近の山本さんのことだった。

「インターホンの音とか過敏に反応するし……あんなに神経質だったかなぁとは思うよね」

「俺も、呼んでも返事しないから肩トントンしたら、すごいびっくりされた」

仕事中にぼーっとしたり、音や人の気配に敏感だったり。疲れているのか体調が悪いのか、ここ最近の山本さんは様子がおかしい。

「……あ、山本来たんじゃない？」

インターホンのカメラに山本さんの姿があった。たしかに集合時間ギリギリだったが、それにしても焦りすぎだ。

「……俺、ちょっと見てくるわ」

エントランスからオフィスまでは、エレベーターが混んでいたとしてもそんなにはかからない。あまりにも山本さんが来るのが遅いから、須貝さんが様子を見に行った。

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