【ツルネ】辻峰高校弓道部、発足秘話【辻峰高校】 (ページ23)

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「うまい。A、店出せるだろ」

「おいしい～」

「冷凍のチキンライスは誰がやってもおいしいからね」

「あ、そうだ。あれやってよ、"おいしくなぁれ"ってやつ」

「う、絶対やだ」

荒垣と樋口はちょくちょくAのバイト先であるメイド喫茶に通っている。店でやる分にはそれほど抵抗はないが、こんなところで素でやれるほどAは吹っ切れていない。

ダメ元で頼んでいたため2人はあっさり引き下がり、話を変えた。

「この前の家庭科で、Aが作ったカップケーキ、あれもおいしかったな～」

「ああ、確かに」

「そう？結局自分じゃ食べてないんだよね、あれ」

"家庭科実習で女子が作ったカップケーキ"というのは、バレンタインチョコの次くらいに男子が欲しがるお菓子だ。

うまいかどうかではなく、好きな子、かわいい子からもらいたい。そういった心理によってAの作ったものの争奪戦が起こることを予想した荒垣と樋口は、授業前からくれと頼んでいたし、Aは別にどうでもよかったので、お腹空いてるんだなぁ程度の認識でそれを快諾した。

しかし、そうして当たる前に砕けていった男子は多いことを当のAは知らない。

やはり同じ部活というのはかなりアドバンテージになるなと再確認した2人だった。

「あ、ごめん、お手洗い借りていい？」

「いいよー。そこ出て左のとこ」

「ありがと」

昼食を終えて、ようやく勉強会を始めるところだった。

Aがトイレのドアを閉める音を確認して、樋口は口を開く。

「荒垣、見た？ A、机に胸乗っけてた」

「見た。というか、樋口は巨乳フェチなのか？」

「うーん、そういうわけじゃないんだけど。なんか、見ちゃうんだよなぁ、Aって」

「えっ。……好きってこと？」

「なのかなー？でも、A、多分彼氏いるしー……」

「……そうなのか！？」

樋口の言葉に荒垣はシンプルに驚いた。樋口がAのことをいたく気に入っているのは知っていたが、Aは彼氏がいるようなそぶりを見せたことはないと思っていたからだ。

「おれは、いると思うなぁ。これが失恋ってやつかー……」

「え……」

言葉のわりにそれほど落ち込んだ様子でもない樋口。どちらかというと荒垣の方がショックを受けていた。恋愛的な意味でAに惚れていたわけではないが、樋口よりも気付けなかったことになんとなく引っかかった。