アナタノアンチ。 (ページ8)

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No.03　中編ページ8

「やってますよ。響先輩はもうボロボロです。戦わせるべきじゃない」
和爻はパソコンに目を向けた後、目を閉じた。
「いーの。アイツが自分で望んだんだから」
火のついていないタバコを咥えたまま、和爻は大きくため息をついた。
「俺だって好き好んで響を戦場に送ってるわけじゃない。アイツは自分の居場所を勘違いしてんだわ」
頭を少し掻く和爻。霊寿は目を伏せる。
そう、仕方がないのだ。

「おっやおや〜〜〜？？フィーの噂が聞こえないなぁ？」

足音をカツカツ鳴らしながら、フィルルが医務室に入ってくる。
「フィルル…今までどこに？」
霊寿は和爻を振り払い、顔を上げた。
反対勢力(アナタノアンチ。)の戦闘員・並びに非戦闘職員に至るまで、反対勢力(アナタノアンチ。)に関わる人間は常に居場所を捕捉されている。GPSとも魔法とも言い難い奇妙な力のせいで、何処にいても感知されるのだ。
しかし、フィルルは頻繁に姿を消す。
何処に行くにも観測者側の世界(オブザーバールーム)には観測されてしまうはずなのに、煙の様に何処かへ消えるのだ。
「霊寿センパイ硬すぎ！どこだっていいじゃん？帰ってきたんだからさぁ」
フィルルはスカートの端を軽く叩いた。少しだけ砂埃が舞う。
「響センパイがダウンしてる間はフィーがメインの戦闘員なんだよ？ちょっとは労ってよね。」
フィルルが医務室のソファにどかっと座った。いつもよりストレスが溜まっているらしい。
「てか、暇だし。禍異物(マガイモノ)は夜しか現れないんだからさ〜〜っ」
和爻はフィルルを宥めつつ、医務室から去って行った。
霊寿はただ無言で作業をしている。
「…フィーの見てる世界はさ、お砂糖のかけられたグミであって欲しかったんだけど〜、そうもいかないっぽいね。悲しいなぁ」
フィルルはポケットから飴を取り出し、某付き飴の包装紙を豪快に破いて、霊寿の口元に押し当てる。霊寿は一瞬不快そうに顔を歪めたが、真顔に戻り飴を受け入れた。
「フィー達の戦いは目に見えないんだから、パッと見幸せそうにしとこ？全世界が嫌いでも、全部大好き！って感じにしよ？」
霊寿はしばらく飴を舐めながらキーボードを打ち込んだが、ふと顔を上げて飴を手に持ち直し、
「あんた達の戦いは俺たちが見てる。」
とフィルルに言った。
「じゃあフィーがセンパイの戦い見てる！」
フィルルは返した。彼は終始笑顔だったが、心の中は
「そうじゃないんだけどな」
と言う文字でいっぱいだった。