父の話 ページ8
朱雀は語らなかった父との対面を思い出していた。
初めて会ったときからきっと気がついていただろう闇堕ちのことも刀身に刻まれた“晴明”の名のこともなにも言わずにただ面白そうに笑っていた父。
その父は決まって朱雀のかつての主である源博雅にこう言っていた。
『お前は本当によい男だ』
人間味に溢れ、他人のために心を痛めることができたかつての主。
態度は大きいのに実は気が弱い、それでいて人情に溢れたその人柄は人の心を無くしたとさえ言われた安倍晴明という男にとって大層面白くうつった。
いつしか共に酒を交わすことが当たり前となった。
いつしか彼の奏でる笛を聴くことが好きになった。
共に鬼退治に出掛け、恋の話をし、呪の話をし、星を眺め、庭を眺め、笑い合う中で確かに“友”と呼べるものへと変わっていった。
彼を守りたいと思った。
彼を失いたくないと思った。
その思いが刀を生んだ。
その思いがその刀の全てだった。
その刀の名前などどうでもよかった。
ただ彼を守れればなんだってよかった。
なのに彼はそれでは刀が可哀想だと言った。
『俺とお前が都の守り人というのならこの刀はまさに都を守るにふさわしい刀だ。
この青く、天まで届きそうなほど真っ直ぐで長い刀身はまさしく都の守りのその一強青龍のようではないか。
晴明、この刀を“青龍晴明”と名付けようではないか。』
思いのつまった刀は青龍と呼ばれた。
ある日その刀は彼を守るために彼の愛する人を殺した。
晴明はその時彼の涙を見、彼の心を救ってやることができなかったと嘆いた。
彼を守るために打った青き刀の刀身は赤く染まり青龍ではなく朱雀と呼ばれるようになった。
晴明は誰か個人のために刀を作るのはこれが最初で最後だと心に誓った。
誰かを守るための刀がこれ以上自分の手で生まれないようにと晴明はその刀の存在を彼と２人だけの秘密にした。
それこそが朱雀が世に名を残せなかった理由であった。
初めて対面した父は満足そうに笑っていた。
『よい男になった』
その言葉は闇に堕ちかけた今の朱雀には大きな言葉だった。
光と闇の間にいる父には、その秩序を守る役割を持つ父には闇堕ち仕掛けた朱雀など排除の対象であっただろう。
にもかかわらず父は朱雀にそういった。
その言葉の意味が分からないほど朱雀は安倍晴明という自らの産みの親を知らないわけではなかったのだ。
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吹雪(プロフ) - コメント感謝しますm(__)m返信、更新ともに遅れて申し訳ないです。これからもよろしくお願いします！ (2018年10月15日 10時) (
レス) id: 4e2a82a17c (このIDを非表示/違反報告)
泉 - とても面白いです！更新楽しみにしています(^O^) (2018年10月8日 15時) (レス) id: 43f343ee39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：吹雪 燐 | 作成日時：2018年10月2日 20時
