五虎退のはなし ページ12
五虎退は目的の場所に着くとそっと息をつく。
ここは最近の刀剣ブームによりかつてよりほんの少し賑やかになった自分の生まれた場所であった。
霊体となり姿を消している五虎退はそっと社に頭を下げた。
「五虎退、ただいま戻りました。」
粟田神社の文字にそっと目を細め中に足を踏み入れたとき社の中で誰かが驚いたように声をあげた。
「神、様……?」
その人物はここの神主のようでいきなり現れた神様に戸惑いの表情を隠せないでいた。
「はい、僕は粟田口派の刀工、粟田口吉光が打った短刀“五虎退”です。」
その言葉にかんぬしはさらに驚いたようでしばらく唖然としていたが五虎退を社へと上げた。
「……神様にお仕えする身ではありますがこうして実際にお声を聞き共に歩むことなど初めてのことでいったいどうしてよいやら分かりません。」
戸惑ったように言う神主に五虎退は笑顔を浮かべる。
「そんなに畏まらなくてもいいです。
僕は神ではありますが付喪神ですから。
それに今は人に仕えている身ですし……」
透を思い浮かべ柔らかく微笑む五虎退に神主は納得したように頷いた。
「審神者ですね。」
「はい。」
本堂の中央に来ると五虎退は膝付いて座り祭られている自らの父に頭を下げた。
(父様、僕の行く末を見ていてください。
昔の弱虫な僕ではなく、相棒を支える立派な刀剣になって見せます。)
心のなかでそう誓うと五虎退は覚悟を決めた目で顔を上げた。
神主はそんな五虎退の様子を見てなにかを悟ったようだがそれには触れずに口を開いた。
「……ご挨拶はもうよろしいのですか?」
「はい、伝えるべきことは伝えましたから。
……神主様、これからもこの神社を、父様をよろしくお願い致します。」
地面に膝を付いたまま深く頭を下げた五虎退に神主は慌てたように膝を付いた。
「お止めください!
神であるあなた様がそのようなことをなさらないでくださいませ!」
その言葉に顔を上げた五虎退の瞳を見て神主はハッと表情を引き締め深々と頭を下げた。
「誠心誠意お仕えいたします。
我が身が終わるそのときまで私はここを守り続けるとお誓い申し上げます。」
言い切った神主に五虎退は微笑むともう一度御神体に頭を下げた。
(五虎退、行って参ります。
あなたの求めた守り刀として生きるために……)
立ち上がった五虎退は神主にも見えないほど気配を消すとそっと神社から消えていった。
89人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
吹雪(プロフ) - コメント感謝しますm(__)m返信、更新ともに遅れて申し訳ないです。これからもよろしくお願いします! (2018年10月15日 10時) (レス) id: 4e2a82a17c (このIDを非表示/違反報告)
泉 - とても面白いです!更新楽しみにしています(^O^) (2018年10月8日 15時) (レス) id: 43f343ee39 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:吹雪 燐 | 作成日時:2018年10月2日 20時