春、9話 ページ10
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「…落ち着いた?」
顔が見えるように腕を少し緩めると、まだ少し潤んでいる瞳と目が合った。
Aはコクリと頷く
『…5じになるまでにぎってていい?』
ぎゅ。と手を握って言うAに、愛おしさが込み上げてくる。
別にそう言う趣味があるとかじゃない。
初めて会ったときからこの子には妙な懐かしさを感じていた。
「もちろん。いつでも、Aちゃんの頼みなら…」
そばにいてあげたい。切実にそう思うのだ。
赤くなった目尻を撫でながら言うと、優しく顔を和らげてゆっくりと体を預けてきた。
その小さな体に、自分も体を少しだけ預ける
夕方のチャイムが鳴り響く中、二人は目を瞑り寄り添い合っていた。
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夢なのか、記憶なのか、それがなんなのか断定できないものが萩原には聞こえた。
「は……らく……。」
暗闇の中微かに聞こえる、人の声
遠くの方から聞こえて、何を言っているのかは全く分からなかった。
「は…の……は…うだ…?」
「…あと………め…さめ……たら………っ…!」
「…い、…きろ!…ざけ…な!!…は…!!」
「…!!!…って!!ま……く…!!!」
「…いま…!ま……だ!!!」
…一体何を話してるんだ?
弱々しく喋る人、怒鳴る人、焦る人、様々な声が聞こえた。
「っ…けん…く……
お…が……。
め…さま……。
…」
しばらくの静寂の後、どこかで聞いたことのある声が脳内に木霊した。
…どこで聞いたんだっけな。
無意識に、その声の方向へ手を伸ばしていた。
『…けんじくん!』
今度ははっきりと聞こえた声にゆっくりと目を開けると、視界にはAちゃんが映っていた。
…さっきの声はAちゃん?
可愛らしい舌足らずなAちゃんの声じゃなくて、可愛いけど凛とした声だったような…
伸ばした手の先はAちゃんの頬に触れていて、その手には小さな両手が添えられている。
Aは不安に満ちた顔をして、静かに口を開いた。
『…きのうも…そのまえもけんじくん、いなかったから…いなくなっちゃったっておもった…。
けんじくん、どこにいたの…?』
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作者名:小春日和 | 作成日時:2021年5月27日 0時