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春、8話 ページ9




『けんじくんおはよー!!!いってきまーす!!!』


「…おはよー!いってらっしゃいAちゃん」


ランドセルを背負い走りながら公園を横切って行くAに手を振り、萩原は浅いため息をついた。


あれから一週間ほどが経った

あの日以降、記憶を思い出すどころか進展が何一つなかった


「…どうしたものかな。」


何か起こらないかとAの学校へ着いて行ったり、街を探索してみたが何も得られず


Aも気にしているのか、彼女なりに一生懸命色々調べたり考えたりしてくれていた。


彼女が元気なフリをして落ち込んでいるのに萩原は気づいていた。



___________________________
______________



『…なにかおもいだせたことあった?』


夕方、いつものように萩原とAは公園の
ベンチに並んで座っていた。

Aの問いかけに、静かに首を横に振る


「…Aちゃんが気にすることじゃないから大丈夫、そのうちきっと思い出せると思うから、ゆっくり探していけばいいさ。」


俯いて顔を上げないAを安心させようと、
ね?と頭に手を置き顔を覗き込んだ


「えっ」

『〜〜〜うっ、う…』


瞬間、彼女の大きな瞳から雫が溢れ出して、小さく嗚咽しながら泣き出した


今まで下を向いていた瞳が、ポロポロと雫を落としながらゆっくりとこちらに向かれた



『けっ、けんっじく、……!』

「…!」


反射的にその小さな体を包み込み、背中をゆっくりと撫でる


「大丈夫…大丈夫だから……」



__今のAの見開かれた瞳が、涙が、名前を呼ぶ声が、何かと重なって脳裏に映った


しかし今の状況で考える余裕はなく、腕の中にいる少女を安心さたい一心に、ただひたすらに抱き込んで背中を撫で続けた


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作者名:小春日和 | 作成日時:2021年5月27日 0時

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