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剛が立ち上がったのを見て、放り捨てられていたカバンを手に駆け寄る。つかやけに分厚いけど何入ってんの?
「剛」
「…見てたんか」
その顔つきはもうただの優等生ではない。島崎が去っていった方向を睨みつけているその顔は私が散々見たそれだ。
「様子見に行くだけだ。心配すんな」
「剛。自分が1番わかってるだろうし剛の性格は知ってるからこんなこと言いたくないけど、頭突っ込みすぎると剛が望んだ"普通"を取り零すことになるんだよ」
「…わかってるよ」
剛は私の手にあったカバンを乱暴に引っ掴むと私の前髪をぐしゃりと掻き回して「お前はさっさと帰って寝てろ。また明日」と言い残してその場を去ってしまった。
────暗に追いかけるなと言われてしまった。ぐうと口を引き結ぶ。帰れと言われたんだから帰るしかない。どれだけ気になっても。
「……クソ」
私には何もできない。普通を望む剛の穏やかな生活を守ることも、そのくせ優しすぎるせいで首を突っ込んでしまう彼を抑えることも。
己の無力感に苛立ちが募る。帰って筋トレして寝る。気を紛らわせないとどれだけ己を責めても満足しない気がしたからだ。
────翌日。教室に入ると、ちょうどそこで立ち止まっていた背中にぶつかった。
「あ、ごめ」
「いやこちらこ」
振り返ったのは剛だった。一瞬の沈黙の後に「…おはよう、葛城さん」とぎこちない声が言うから「……おはよう難破くん」とこれまた同じくぎこちない返事を返すことしかできなかった。
「どーよこれ!」
剛の視線の先────ぺらぺらの生地に赤い油性ペンで乱雑に文字が書かれたものを羽織る島崎の得意げな顔にぽかんとしてしまう。
「…なに?それ」
「自作だ自作。やっぱヤンキーっつったら特服っしょ」
「と、特服?」
思わず間抜けな声が出た。その様子を見ていた深雪ちゃんがちょいちょいと手招きしている。
「あんなの見たことないからびっくりしちゃうよねえ」
「なんかぁ、昨日ああいう服着た人に助けて貰ったんだって」
守田さんのヒソヒソ声に私は再度びっくりする。まさかと思い当たることがないでもないが確証もない。
「ええ…島崎くんあれかっこいいつもり?」
辛辣な言葉に表情を固まらせ首だけを動かして深雪ちゃんの方を見た剛は、それから視線を滑らせて私の顔を見た。
残念ながらその真意を読み取れるほど私はエスパーではなかったのだが、絶妙に悲しそうだったことはわかった。
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間宮祥太郎好き - 難破剛かっこいい惚れました。しかも今も胸キュンです。ずっと難破剛会いたい、会いたくてしかたないです。大好きです。 (2022年6月16日 22時) (携帯から) (レス) id: 63b7d0fc4e (このIDを非表示/違反報告)
あたりめ - ナンバMG5の難波くんのお話なかったので見てみたら話が面白すぎて引き込まれちゃいました…!🫠間宮祥太朗さんファンなのでありがたいです😭!! (2022年6月16日 21時) (レス) @page38 id: 9f8ceec694 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:木ノ嶋 | 作成日時:2022年5月24日 12時