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「……でも、剛にあんまり学校では話しかけない方がいいよね、私」
「あ?なんで」
想像よりも低くて凄みのある声が返ってきて思わず息が止まる。照れ隠しのつもりで話題を逸らしたのもあるが、これは剛が白百合に入った経緯を話していたときから思っていたことだ。なのに険しい顔をされてしまって狼狽する。
「や、だって、昔の知り合いってあんまり都合よくないでしょ。昔の話とか聞かれたらボロが出ちゃうかもしれないし、それにもし私の中学時代のことが知られたら自ずと剛のことだって芋づる式に」
「A」
びく、と身体が固まる。
さっきまで人畜無害そうな顔をしていたくせに。優男を絵に描いたような出で立ちのくせに。
鋭く睨みつけ、強く寄せられた眉に私はここが普通科高校であることも忘れてびりびりと背中に電気が伝うような感覚がした。ぞくりとした、の方が語弊がないかもしれない。
目の前の男は黒髪で、地味で、優しい顔をして、誰も傷つけたことの無いような風貌のくせに、間違いなく私がよく知る男だった。私が誰よりも1番近くで見てきた、男だった。
「……幼なじみのことを隠す必要があんのか?お前は俺のツレだろ、そこには何の嘘もねえ。それに俺の勝手な二重生活にお前を巻き込む気もねえ。他人じゃねえんだから他人のふりする必要ねえよ」
他人じゃないんだから、他人のふりをするな。
その圧倒的な圧力と覚悟の決まった声。彼は本気なのだ、何もかも。ヤンキーと優等生の二重生活も、環境のせいで変わったりしない私との関係も、全て。
予鈴の鐘が鳴る。その音で我に返ったかのようにようやく私の身体が動き出す。剛は先に戻ると言うふうに、私の肩にぽんと手を置いて、
「…普通にしてくれ、A」
とだけ言い残して屋上を後にした。
「……、はあ〜……」
ぱらぱらと人が居なくなっていく屋上で、へなへなと力が抜けたように座り込む。
必ず間に合うように教室に戻るから、だからもう少しだけ息を整える時間が欲しい。
あの鋭い目が、声が、頭に蘇る。
……今まで1度だって口にしたことのない言葉は、果たして今回も胸の内から放たれることはない。
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間宮祥太郎好き - 難破剛かっこいい惚れました。しかも今も胸キュンです。ずっと難破剛会いたい、会いたくてしかたないです。大好きです。 (2022年6月16日 22時) (携帯から) (レス) id: 63b7d0fc4e (このIDを非表示/違反報告)
あたりめ - ナンバMG5の難波くんのお話なかったので見てみたら話が面白すぎて引き込まれちゃいました…!🫠間宮祥太朗さんファンなのでありがたいです😭!! (2022年6月16日 21時) (レス) @page38 id: 9f8ceec694 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:木ノ嶋 | 作成日時:2022年5月24日 12時