その恋の裏側を、きっとキミは知らない (ページ10)

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「その酒どーすんの？」

『お客様にはお出しできないので捨ててます』

「もっっったいねぇー…」

ですよね…と眉間に皺を寄せて
申し訳なさ全開の小娘。

バーテンダーがそんなに感情が
顔に出ていいものなのかよ。

はぁ…とため息を漏らして失敗作に手を伸ばした。

伸ばした。

…伸ば、した。けど。

ひょいっと。それが浮いた。

浮いたと言ってももちろん魔法なんかじゃない。

人がそのグラスを持ち上げただけ。

ただその〝人〟が小娘でも俺でもない第三者。

『っはー！うまっ！』

『…え？』

『全然失敗してないじゃん！』

『お、お客様…』

『捨てるのはもったいないよー』

俺の真隣の椅子は俺の鞄が置いてあるから
そのまた隣のスツールを引いた。

俺より背高ぇな。
アイボリーのスーツが映える長い手足。
ダークブラウンのサラサラの髪型。
まるでモデル。

数年来の友達のように
スルッと入ってきたこの男に
動揺を隠せない小娘はジッとモデル男を見つめる。

「…相葉雅紀」

『え、お兄さん俺と知り合いだっけ？』

「いや、会社のID首にひっさげたままだし」

『うぇ！？うわ、まじか！俺電車乗ってここまで歩いてきたんだけど！』

「個人情報見せびらかしてきたってわけね」

『やっちったー！俺バカだー！』

「うん、バカ。」

ストレートに言う俺に
カズさん！と小娘が制する。

そしてこのモデル男を見て
いらっしゃいませ、と丁寧に一礼し、
コルクのコースターを差し出した。

ちょっと不安そうな顔で問いかける。

「でもそれ失敗してるんです…グラデーションが上手くできてなくて」

『あ、新人ちゃん？』

「そうなんです。だからまだ私はお客様に出すことは出来なくて…」

『見た目なんて気にしなくても身体に入れば一緒！捨てるのはもったいないでしょ？』

「それはそうですけど…」

なんともないようにまたグラスに口をつける。

『じゃあ、俺がAちゃんのお客様第一号だね！』

_________…俺は生まれて初めて、
人が出逢い、恋に落ちる瞬間を目の当たりにした。