その恋の裏側を、きっとキミは知らない (ページ8)

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夢でいいからもう一度ページ8

ネオン街から外れた道の先。

ひっそり、こっそりと佇むお店。

外から見れば窓もなければ
ただ〝BAR〟と書かれた看板だけが
ここ店の存在をアピールする物質。

こんな怪しさの塊の店に
何故入ろうと思ったか、なんて。

今となってもわからない。

キィ…と音をたてて扉を開ければ
階段が俺を迎える。

すぐに耳に入るのはピアノの旋律。
綺麗なBGMが心地いい。

…思ったよりも広ぇな、ここ。

ライトをだいぶ落としていた室内は
外から見た見た目よりも広く感じる。

テーブル席で団欒するカップル、
カウンターのスツールに足を掛けて
スマホをいじるOL。

その前でいわゆるワイングラスを拭いていた
いかにもバーの店員って感じのイケメンが
入口で佇む俺に気づいた。

にこり、笑う。

『いらっしゃいませ』

階段を降りてフロアに立つ。

おひとり様の俺はもちろんカウンター。

適当にその真ん中あたりの席に足を進めると。

『お客様はあちらの席のほうが』

真っ白なナプキンを持ったままのイケメン店員が
俺の左サイドに合図を向けた。

え？とその視線を辿る。

…1番左端に行け、と？

『…左利きのお客様は、何かと不便ですよね』

ふふ、と笑い真っ黒なシャツを捲りあげて
またグラスを拭き始める。

ちょっと掴めない雰囲気が漂うイケメン店員の
前髪がはらり、落ちた。

「…なぜ、俺が左利きだって？」

今日初めて来たのに。

ましてやたった今、
ドアを開けて階段を下りただけなのに。

その席に向かって歩く。
隣のイスに仕事用バックを置いて
かるーくネクタイを緩めた。

イケメン店員はグラスとナプキンを置いて
シェイカーに手をかける。

キュ、シュポポポ…カラン。

『接客業は一期一会です。』

「……」

『初めましてのお客様でも、今どんな気分なのか、何をご所望なのか。それを察するのも我々の仕事』

「……」

『って感じでやってると、人間観察が得意になる仕事でして』

あは、とさっきとは違う幼い笑みとともに
今日は酔いたいんですよね？と
差し出したそのスパークリング。

その味と、このイケメン店員に
ハマった瞬間だった。