その恋の裏側を、きっとキミは知らない (ページ13)

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『いつ見てもそのシェイカーをぐるん！ってするとこすごいな…。Aちゃん、いつからこの店で働いてるの？』

「……4年前、ぐらいですかね」

『4年前か。俺そんときなにやってたっけかなぁ…』

俺ボケたかな？思い出せない！って
ヘラヘラ笑ってやがる。

自分の記憶が無いと自覚がないこの男は
ときどきミエナイ刃で痛いとこを付いてくる。

「…お待たせしました。ブルームーンです」

コト、と置かれたそれは綺麗な蒼。

『わー！綺麗！』

「ふふ、ありがとうございます」

『ブルームーンっていうの？どんな意味ー？』

「意味…」

『カクテルって意味があるんでしょ？潤くんが言ってた』

曖昧に笑ってた小娘の笑みが止まる。

目を少し泳がせて、えと…と言葉を探していた。

そのとき。

まるで小娘を助けるように
ピロン、ピロン、と軽快な音がスマホから鳴る。

相葉はちょっとごめんね、と言って
通話開始のボタンを押した。

『はい、相葉で…』

『あいばさぁん〜！わたしです、葉山ですぅ！』

スピーカーにしているわけじゃないのに
漏れて聞こえる相手の甲高い声。

あれだ、俺の嫌いなタイプの女の声。
キンキンしてうっせーやつ。

相葉は飄々と電話に出るもんだから
余計タチが悪い。

『えっと…あなたは…』

『やだもう！この間の親睦会で一緒に過ごしたじゃないですか！』

『あぁ、あのときの！…どうされました？』

『よろしければ食事でもどうかしらと思ってお電話いたしましたぁ！』

『あはは、ありがとうございます』

『来週末でも……』

ガッシャン！！！！

上っ面だけで鳴るような乾いたガラスが割れる音。

音量だけは大きいものの、深みのない散乱音。

ハッと息を吸うのを途中で遮られたように
短い息が目の前から聞こえた。

カウンターに手をついて
やっと立っている状態の小娘。

目を顰めて唇を噛んで耐える顔は
今にも泣きだしそうで。

少しの衝撃を加えればいとも簡単に
水分を多く含んだ瞳が溢れそうになっている。

『ちょ、Aちゃん！大丈夫！？』

ごめんまたかけ直す！と電話口に伝えて
あわあわし出す。

さすがに天然バカでも小娘のようすが
急に変わったのがわかったようだ。

…もう、ダメだろ。

「…小娘」

『……は、い』

「………もう、諦めろ」