その恋の裏側を、きっとキミは知らない (ページ12)

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まるで蚊さえも殺したことなさそうなコイツは
小娘との遠距離恋愛の最中に
事故で記憶をなくした。

それも小娘に関する記憶のみ。
笑顔で残酷なことをしやがる。

連絡も一切取れずに
行方すら分からなかった好きなやつが
突然戻ってきたと思えば記憶が無ない。

相葉の行方がわからなくなり、
憔悴しきって倒れるまで到った小娘が
やーっと落ち着いてきたってときにこの有様。

…小娘は前世でどんな悪いことをしたんだよ。

まったく相手にしない俺に
まるでガキのように唇を尖らせて
だってさ〜と不貞腐れながら呟く。

『…Aちゃんの彼氏、行方不明なんでしょ？』

「……」

『前言ってたじゃん。…俺、衝撃受けて』

「…衝撃、」

『ずりーよ、その男。こんなイイコをほっとくなんてさ…』

それでもこの男は記憶をなくしてもなお
小娘のことが気になる様子だ。

ビールが入ったグラスを手首で回す。

長い睫毛を伏せて一気に飲み干すと
ちょっとだけ雑にコースターの上置いた。

お前の事だよ、と言えたらどんなに楽か。
何回考えたかわからない。

むしろ罵ってやりたいくらいだ。

よく平然と小娘の前にいられるな。

記憶をなくしただと？ふざけんな。

小娘がどれだけ、どれだけ………

「カズさん、相葉さん。おかわりいかがですか？」

ポロン、と。メゾソプラノの声。

ニコニコと微笑みながら
いつの間にか俺と相葉の前に立つ小娘は
今日もまた頑張って笑顔をつくっている。

そう。頑張って、無理をして。笑っている。

ぎこちない笑顔だということを、
相葉は気づいているのだろうか。

『じゃーオススメお願いします！カズは？』

「…まだあっからいーわ」

『かしこまりました』

すぐに準備に取り掛かる小娘。

黒のシャツを袖を軽く捲ると真っ白な肌。
照明を抑えてるこの店にやけに映えて見えた。

シェイカーを自由自在に操る。

…手際よくなったな。いつの間にか。

ドンガラガッシャンやってた小娘は
今やプロと言っては過言ではない手捌き。

月日の流れを感じる。

相葉はその様子を頬杖を付いて
ご機嫌調子で眺めている。

……お前だけだよ。

……悩んで、苦しんでないのは、
その根源のお前だけなんだよ。