ご主人様の言う通り (ページ30)

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二宮「準備できた」
その時には、もう既にリビングには私しかいなかった。

＿一番近くにいたようで、実は一番遠かったのかもしれない＿

切ない声で歌う和はいつもとは違って見えて、智くんとはまた違う何かを感じさせる。

「和、それって…」

二宮「そう。俺が彼女と分かれたあの日に書いてた曲。」

「嫌なこと思い出させてごめん…」

二宮「嫌なことも全部曲にぶつけられる。それが、俺が歌手を諦めて、作曲をしようと思ったきっかけ。」

「…もう歌は歌わなくていいの？こんなに素敵な声なのに」

二宮「俺には向いてねぇんだよ」

「またそうやって、自分を下げるんだから。自信もってよ」

二宮「お前には関係ない」

「なんか辞めた理由があるの…？」

二宮「それも関係ないし」

「あぁあ。そういう所じゃないの？彼女さんに振られた理由は。人の優しさ読めないとこが、子供なんだってば」

二宮「そういうお前も。そんな、人のことに首突っ込むから、彼氏に浮気されて、オマケに金まで奪われたんだろうが」

お互いに、気づいてたけど、気づきたくなかった自分の痛いところを言われたような顔をしてた。

私は和とは合わない。
口を開けば喧嘩しかしない。

でも、それだけじゃなかった。

お互い誰にも言えない思いをお互いにぶつけてたんだ。

大野「…なに？2人とも大きな声出して」

二階で寝ていた智くんが、私たちの争い声で起きちゃったみたい。

「あっ、ごめんね。起こしちゃった？」

大野「別にいいの。それよりなんかあったの？」

「ううん！大丈夫」

その言葉を聞いて安心したのか、
「なら良かった」
とだけ呟いて、お風呂に行ってしまった。

また沈黙の時間が始まる。

先に口を開いたのは、和だった。