ご主人様の言う通り (ページ42)

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「…うーん」

来ていく服が決められない。

ー『1時、会社の前で』ー

それをみてから、既に二時間がたつ。

「決まんない…」

まず、スカートなのかズボンなのか。

そういえば前、和と出かけた時は白いワンピースがいいって言ってたけど…

翔くんはどうなんだろ

「翔くんは、どんな服が好みでしょうか？」

ついつい、和に頼ってしまう。

ﾌﾞｯﾌﾞ…

二宮「お前らしけりゃいいんだよ。そんなこと自分で考えろ」

「…自分らしく」

自分で考えろって言うのは、“俺のこと頼んな”とかそう言う意味じゃない。
きっと、“俺に聞くことじゃない”って言ってくれてるんだ。

「…そうだよね」

そして、手に取ったのがジーパンにシンプルなTシャツ。
どこからどう見ても、女の子らしさは1mmもない。

自分を飾るんじゃなくて、ありのままでいよう。

そう思えた。

・

12時半。
私は家を出る。
家から会社までは20分もかからない。

案の定、12時50分に会社についた。

櫻井「っごめん。待った？」

1時丁度。
彼がそう言った。

「ううん。待ってない」

すかさず私もそう返す。

櫻井「じゃ行こっか」

もうお店は決めてあるみたいで、見慣れた町並みをどんどん歩いていく。

櫻井「ここここ！旨いんだよね」

ついた所はお蕎麦屋さんだった。

「…意外だね」

櫻井「なんで？(笑)」

いつものはにかんだようなくしゃくしゃの笑顔で笑う。

「もっとオシャレなレストランとかだと思ってた。」

櫻井「そ？…蕎麦嫌い…？」

「う、ううん！大好きだよ」

いや、実際には“大”好きではない。

櫻井「うそ？ほんと？俺、蕎麦大好物なんだよ。気合うな」

「そ、そうだね！」

『気合うな』って、翔くんに言われた嬉しさと、偽りの自分であることの罪悪感が心で混ざりあってる。

櫻井「何頼む？」

「ここのお店も、“いつもの”ってあるの？」

櫻井「うーん。……ある」

「じゃあ私もそれにしよっかな」

櫻井「そうする？」

「うん」

ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…

「私かな？」

櫻井「あっ、俺だわ」

だけど、翔くんは電話に出ようとはしない。

「……でないの？」

櫻井「いいのいいの」

「私のことは気にしなくていいから。出てあげて？」

櫻井「ありがと」

櫻井「もしもし…」

「…夏恋？久しぶり」

“夏恋”
私はその一つの言葉を聞き逃せなかった。