あなたが私を知っているのなら[のんびり更新] (ページ15)

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おーちゃんまで辛そうな顔をするから、

私は焦って笑顔を作った。

でも、おーちゃんの顔はむしろ
前より曇ってしまった。

『なんで…』

そして、下を向いてそう呟いた。

｢おー…ちゃん？｣

そう名前を呼ぶとおーちゃんは
ゆっくりと顔を上げた。

そして、私の腕を掴んで
自分の胸に引き寄せた。

何が起きているのか、
私の頭は理解しようとしても
できなかった。

おーちゃんの匂いが私の鼻をくすぐる。

｢おーちゃ…｣

『ごめんA、少しだけ。』

声が震えていた。

きっとおーちゃんの忘れられない人を
私に重ねているんだろうな。

だから私も、さっちゃんを
おーちゃんに重ねた。

忘れないように。
私の心にさっちゃんを刻むように。

ふたりで、それぞれ大好きな人を重ねる。

こんな切ないハグなんて
きっとこの世に存在しない。

おーちゃんの後ろに見える釣竿が
ピクピクと動き、
獲物がかかったことを教えていた。

..

大学の入学式で
体育館までの道を教えてくれた。

それが私の儚い恋のはじまり。

その先輩は
明るくて、コミュ力が高くて、
みんなの人気者。

私は簡単に堕ちた。

連絡先を交換して、
一緒にご飯を食べて、
映画も見に行った。

そしてあの日、
そう。さっちゃんたちと花火をした日。

私は勢いで告白した。

ただ、好きだったから。

でも
好きな人がいる
だなんて言われて。

私は遊ばれていただけだった。

今思えば、どうしてあのとき
さっちゃんに連絡したのかな。

急に泣きながら電話してきた私を
さっちゃんはどう思ったんだろう。

優しい声で
俺にすれば？
だなんて言うから

私は
バカだね
って言って笑ったっけ。

でもその後
私はさっちゃんに堕ちた。

優しくて、温かい、素敵な人に。

..

『ごめん。本当にごめん。』

おーちゃんは私から身体を離すと
そう言った。

｢大丈夫だよ？
私も、おーちゃんの気持ち分かるから。｣

『え…？』

｢ううん。なんでもない。
とにかく寂しくなったら
いつでもおいで!!!!｣

『……ふふふ』

おーちゃんは微笑みながら
自分の釣竿のもとに向かった。