偶然からはじまる恋〜羽生結弦 (ページ40)

今日:32 hit、昨日:3 hit、合計:27,163 hit

初めての電話3 ページ40

羽生サイド

電話を切って、しばらくベッドに倒れ込む。

目を閉じると先程までのさきちゃんの声が頭の中で再生される。
まだまだ心臓の鼓動が収まりそうにない。

お腹も空いてるけど、胸がいっぱいで今日はたべられなさそう…。
恋煩いとはこのことかと思った。

今までもそれなりに彼女はいた。
だけど申し訳ないけど正直俺の1番はスケートで、気持ちをコントロール出来なくなるほど人を好きになったことはなかった。

それでも普通に好きではあったから、恋愛なんてそんなもんだと思っていたのに…。

俺は今、出会ったばかりのさきちゃんになぜだか強烈に惹かれている。
理由は明確には分からないけど、きっとその存在全てが俺の五感を刺激している。

…さきちゃんは俺のことどう思ってるんだろう。
少なくとも嫌われてはいないと思う。

さっきの電話でも楽しそうだったし、ご飯に行く約束だってしてくれた。
距離が近くなると顔を赤くして照れていたし…。
と、今日のさきちゃんの様子を思い出して顔が緩む。

重症だな、俺。

とにかく次のデートではもっとさきちゃんと距離を詰めよう。
その後はショーが続いてしばらく会えなくなるはずだし、こういうのは出会い初めが大切って分かってる。

今は文明の利器だってあるんだ、デートまではこいつが繋いでくれる。
頼むぞ、と手の中の真っ暗いスマホに問いかけた。

翌日はとても気持ちいい目覚めだった。
普段寝起きが悪い俺にしては珍しく予定時刻通りにスッキリ起きられた。
今は8:30ちょうど。

今日は朝から取材だから、起きられたことは良いんだけど。
でもあわよくば、もう少し寝ていたかったな…。

なんせ夢でさきちゃんが出てきたんだ。
あの照れたような笑顔で俺のことを名前で呼んでくれて、柔らかい身体で抱きついてきて…。

目を閉じての夢の内容を反芻して、思わず喉がゴクリと鳴った。
…朝から何やってんだよ俺。

思春期真っ只中の高校生のような自分自身に苦笑して、朝の準備を始めようと起き上がる。

あ、さきちゃんはまだ寝てるかな？
今日も仕事は休みって言ってた。

おはようとかLINE入れてもいいかな。
今日の休みは何するの、とか聞いてもいいかな。
…夢にさきちゃんが出てきたとか言ったら、キモいかな。

数秒悩んで、スマホを手に取る。

『おはよう！
昨日は長々と電話、ありがとうね。
たしか今日も休みだよね、ゆっくり休んでね。
俺は取材に行ってきます。』