魔法学園ヘタリア〜A riddle of Jones〜

Episode 8 ページ9

「・・・そう言えば、何故チェコに移住したのか聞いてませんでしたね。」

唐突にロディがアントンに言った。そろそろ教えろ、ということだろう。

「俺の親父は、某有名ホテルで料理長しとったんや。お袋は小さなフラメンコ教室をやっとった。

でもな、親父が、酒のんで酔うた拍子に自分がヒターノ出身やって言うてもてん。それから、親父

は平の料理人に降格させられて、お袋のフラメンコ教室は生徒が来んようなって潰れてもた。おま

けに、それまで仲良かった近所の人らが俺らに冷たくなって、挙句この町から出てけ言うてきたん

や。別に俺らは麻薬の密輸とかいかがわしい商売やっとるわけないし、そんなことせぇへん性分な

んはよう分かっとるやろ、って親父は説得したんやけど・・・」

そこまで一息で語り、エリザの出した水を一気に飲み干す。

「"ヒターノは信用できひん"ってぬかしよんねん。それで、そのことを昔馴染みのアダルベルトは

んに相談したら、そんならうちの近所に来おへんかってことになってここに来たんや。でも、ヨー

ロッパにおる限り辛い思いするだけやし、いっそ日本かアメリカに移った方がええんとちゃうかっ

ちゅう話になっとるんよ。」

言うまでもないが、アントンはイギリスとアメリカがこれでもかという程嫌いだ。その彼がアメリ

カに移住したいと言っている。そこまで追い詰められていたのだ。

「・・・・・・そうよね。私のお母さんも、近所の人から冷たい目で見られてるし。本人は全然気

にしてないけど。」

エリザが同調する。Aとアダルベルトは何も言わないが、同じことを考えているのだろう。

「俺様は、ツィゴイナー(ロムのドイツ語)の伝統的な音楽はマジでカッコイイと思うぜ。まぁ、犯

罪に走る奴は多いけど、それにお前等が関わってるわけじゃねぇしな。」

「一部の馬鹿のせいで、真面目な奴らまで泥を被る。どこへ行っても、その法則は変わらねぇんだ

な。」

いつもなら必ず誰かが突っかかるアーサーの嫌味に、誰も何も言わなかった。

重すぎる沈黙。

ロディがバイオリンを弾く。

ギルがアコーディオンの鍵盤を押す。

アダルベルトがギターを弾き、歌を歌う。

アントンが軽快なステップを踏み、エリザとAがジプシースカートを翻す。

そしてアーサーは、部屋にあったジャズピアノの鍵盤を叩く。

すぐに、楽しそうな笑い声が家に響く。

本来なら、今頃広場で奏でていたはずの音楽。









観客は、誰もいない。

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