10 ページ48
母がいないにもかかわらず、私と優斗くんは全くと言っていい程料理が出来ない。
洗濯や掃除といった家事はこなしているが、料理だけは二人ともてんでだめである。
私たち兄妹は、幼いころから、料理を作る必要に駆られたことがないのだ。
幼少期は父がなんとか都合をつけて家事をやってくれたり、祖母が毎日のように家に来て面倒を見てくれたりしていた。
私たちがある程度成長し、家のことが出来るようになると、父も祖母もあまり手をかけないようになった。
しかし、それでも夕食の作り置きやお裾分けだけは今でも続いているのである。
多分、私の家は、そこまで悪い家庭ではない。
片親なのに、調理実習以上の料理が出来ないことはその表れだ。
心に引っかかるものはいくつもあるけれど、きっとそんなものは本来ならば無視していいものなのである。
「ねえ、作ちゃん、すき焼きいつ温め終わんの？」
「今やってるからもうちょっと待って。ていうか優斗は机拭けたの？」
「俺？Aが拭いたんじゃないの？」
「私が今日ご飯炊いたんだからそれくらい優斗くんやってよ」
あいあい、と気怠そうに返事をしながら、優斗くんは消毒用ウェットティッシュのプラスチックの筒を開けた。
優斗くんが白いティッシュで撫でるたびに、てらてらと濡れ、反射する木の机。
幼い頃から見ている景色。
私と優斗くんしかいなかった空間。
そこに今は龍斗くんがいる。
昔の優斗くんは、兄貴の俺がやるから、と言い、家のことは何でも率先してやっていた。
私が小学校高学年になり、優斗くんの中学受験準備が本格化すると、次第に私の負担分が大きくなっていった。
いつしか、優斗くんはしぶしぶ家事を担うという演技をするようになった。
まるで私の偽物の説教を待つかのように。
本当は優斗くんが、家のことをやるのを嫌がっていないことを、私は知っている。
どんなに繋がることが出来なくても、長い間一緒にいれば、相手の半分くらいは分かる。
半分くらいなら、理解できる。
でも、残りの半分が分からないということが問題なのだ。
だから、私たち兄妹は正反対の位置に置かれているのだろう。
龍斗くんがどいてどいて、と優斗くんの手を払いのけながら三人分のお皿を置く。
続いてすき焼き風煮の入った鍋を抱え、お玉で均等に分けていく。
もし、母が今も生きていたのならば、母のこんな姿が日常に溶け込んでいたのだろうか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 131人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「HiHiJets」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
れお(プロフ) - 陽依さん» コメント有難うございます。そんな風に言っていただけて、本当に嬉しいです。ゆっくりですが更新していきますので宜しくお願い致します。 (2021年8月4日 0時) (
レス) id: 8293f3a179 (このIDを非表示/違反報告)
陽依(プロフ) - ほんとにこのお話大好きです！なんでとかはうまく言えないんですけど…これからも楽しみにしています！ (2021年8月2日 22時) (レス) id: 5f72745e3d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：れお | 作者ホームページ：https://peing.net/ja/reosndy
作成日時：2021年6月26日 21時
