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「……お父さん」
精一杯の抵抗のまなざしを父に向ける。
しかし、私の恨みはどうやら届かなかったらしく、なあに？といつも通りの甘ったるい声が返ってきた。
話にならない。
父はやっぱり、自分以外のことなんかどうでも良いらしい。
母が亡くなったのは、私が生まれてから2年ほどが経った秋の日のことだったらしい。
「らしい」と伝聞系なのは、私自身に母の記憶が一切ないからだ。
母は私を産んだ数か月後から体調を崩し、亡くなるその日まで、ずっと入院していたらしい。
私のお産が直接の原因だったわけではないが、多かれ少なかれ影響があったのだろうと私は推測している。
とはいえ、私のせいで死んだ、という自責の念はない。
悲しい気持ちもあまりない。
そもそも、物心ついた時から母がいないのは当たり前だったからだ。
しかし、2つ上の優斗くんにとっては大きな喪失体験だったに違いない。
その証拠に、優斗くんは毎朝、母の部屋の鍵を開け、空気の入れ替えをしてから家を出る。
帰宅後は必ず電気をつけ、空調のスイッチを入れる。
まるで、母が今でもその部屋を使っているかのように。
優斗くんにだけ、母の姿が見えているかのように。
そんな光景を毎日目にしているから、あの部屋を龍斗くんに渡そうとした父が信じられなかった。
父はきっと知らない。
優斗くんが今でも母の影を追い求め、幼い子どものように泣き続けていることを。
宣言通り、優斗くんは、夕飯の時間を過ぎても家には帰ってこなかった。
テレビ台に置かれた時計をちらちらと見てはため息をつく私と対照的に、父はいつもと変わらず夕ご飯を食べ、誰よりも早くお風呂に入り、誰よりも早く寝室へ行った。
いつも通りをいつも通りにこなす姿は、まるで、優斗くんがいないことにさえ気が付いていないかのようだった。
当然のごとく、私の精一杯のにらみなんか気にも留めていない。
きっと、いつもより目を細めているなあ、としか思っていないのだろう。
最悪私の顔なんか見ていない可能性さえ考えられる。
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れお(プロフ) - 陽依さん» コメント有難うございます。そんな風に言っていただけて、本当に嬉しいです。ゆっくりですが更新していきますので宜しくお願い致します。 (2021年8月4日 0時) (
レス) id: 8293f3a179 (このIDを非表示/違反報告)
陽依(プロフ) - ほんとにこのお話大好きです！なんでとかはうまく言えないんですけど…これからも楽しみにしています！ (2021年8月2日 22時) (レス) id: 5f72745e3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：れお | 作者ホームページ：https://peing.net/ja/reosndy
作成日時：2021年6月26日 21時
